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俺の涼風 ぼくと涼風
番外編
熨斗をつけて返す
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と思う。

 だが、雪緒はそうしない。覚悟を持って、涼風を助けに行くという。たとえ、それが自身の命を削ることになろうとも。

 両膝をついてうなだれる榛名を、雪緒はジッとみつめて、そして咳き込みながら、静かに口を開いた。

「……ゲフッ。榛名さん」
「……決心がついたんですか?」

 その声は、あたし達の提督のように、静かだけどよく通り、とても耳に心地よい、聞いてるだけで安心出来るような、不思議な声色をしていた。

「ぼくは行きます。涼風とは……ゲフッ……二人で、一人だから」
「……」
「ノムラの話は聞きました。そんなヤツに、涼風を渡すわけにはいかないから」
「……」
「ぼくと涼風は二人で一人だから。だからぼくが助けないと……」
「……」
「ゲフッ……」

 未だに引かない榛名も強情だが、折れない雪緒も中々強情だ。きっとこの二人は、涼風が自力で戻ってこない限り、いつまでもこの場で言い争いを続けるだろう。そろそろ涼風を助けに行かないとマズい。埒が明かない。

 あたしは意を決し、艤装を外した。

「え……ゲフッ」
「摩耶……さん?」
「埒が明かねーだろ」

 あっけにとられる榛名をよそに、あたしは外した艤装を手に持って、陸にそれを置く。そのまま、両膝をついている榛名の元へ、静かに主機を回した。

「榛名。何言っても無駄だよ。こいつは折れねえ」
「でも……」
「でもさ。お前の気持ちもわかるし、正直、気持ちはあたしも一緒だ。それに、ノムラをぶん殴りたい気持ちも、あたしには分かる」
「……」

 だから、無謀かも知れないけれど。艦種の違うあたしと榛名じゃ、あまりに馬鹿げたことだけど。

「だから榛名。お前の艤装、貸せ」
「え……?」

 榛名が、顔を上げ、あたしを見た。榛名の目が、『あなたは何を言っているんですか』と、私に疑問を投げかけている。

 馬鹿げたことを言っていると、あたし自身も思う。だけど、あたしと榛名が同じ気持ちを共有している以上、こいつの気持ちを汲んでやりたい。連れて行くことは出来ないが、あたしも、雪緒だけじゃなく、榛名と一緒に、涼風を取り返しに行きたい。

 だからあたしは、榛名と共に涼風を助けに行く。それが、あたしが榛名に出来る、精一杯だ。

「お前の気持ちは、お前の艤装であたしが届ける。」
「……」

 榛名は再び、あたしから視線を外した。悔しそうに下唇を噛み、雪緒の足元あたりを見つめてる。納得は出来ないみたいだが、あたしの提案を受け入れたようだ。榛名の艤装から、圧力を抜くプシュッという音が鳴ったのが、あたしにも分かった。

「おい提督!! 聞いてるか!?」

 右手の甲を右耳に当て、あたしはこの会話を聞いているであろう、提督に怒鳴りかけた。
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