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俺の涼風 ぼくと涼風
番外編
熨斗をつけて返す
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ウソを、つかないで下さい」

 榛名が、ゆきおから目を背けた。自分の死を悟った、この細っこい少年は今、どんな顔をして榛名と対峙しているのか分からない。だけど、その覚悟はあたしにも伝わる。

 こいつはウソをついてない。それは、そんな雪緒から目を背けた、榛名の目が物語っている。ウソをついてないと分かったからこそ、榛名は雪緒の顔を見てられなくなったのだろう。

「……ゲフッ。ウソじゃないです」

 咳き込みながら答えた雪緒の答えを聞いた榛名は、涙を浮かべた両目でキッとゆきおを睨んだ。

「だったらなおさら安静にしていて下さい! 少しでも長く、涼風ちゃんと一緒にいてあげて下さい!!」
「イヤです! ぼくは行く!!」
「ワガママ言わないで下さい! 涼風ちゃんが好きじゃないんですか!?」
「世界で一番好きです! 涼風は何よりも誰よりも大切です!!」
「だったら……! 今は安静にして、一秒でも長く、一緒にいてあげて下さい……ッ!!」
「……」
「お願いですから……あの子につらい思いを……もう、させないで、下さい……ッ」
「……」
「代わりに、榛名が行きますから……ッ」

 ボロボロと大粒の涙を流しながら、榛名が両膝をついて、雪緒に頭を下げている。榛名の言いたいことはあたしも分かる。あの日以降、涼風がどれだけ苦しんできていたのかは、そばで見ていたあたしが一番良く知ってる。それに、こっそりと涼風を見守ってきたこいつも、アイツの苦しみがよく分かってるだろう。

 雪緒と知り合ってからの涼風は、本当に明るくなった。それまでは終始過去を引きずって、笑顔すら見せなくなっていた涼風が、こいつと出会って、元の明るさを取り戻した。

――今、ゆきおと一緒に沖から鎮守府眺めてる!!

 こいつらが鎮守府を抜けだして、二人で沖に出たときの事を思い出す。あの時は事態が事態だけに、あたしは立場上、やむなく二人を叱ったが……

――あたしの妹分に笑顔を取り戻させてくれて、サンキューな

 本当はそう言いたかった。雪緒の頭をぐっしゃぐしゃに撫でた後、雪緒に感謝したかったんだ本当は。

 こいつが東京に行く前もそうだ。涼風は、雪緒にノムラの話を全部話したと言っていた。その話を聞いて、それでもなお雪緒は、涼風を受け入れてくれた。一緒に寝たというのはびっくりしたが、それが涼風を守るためだってのは、少し考えれば察しがつく。

 それだけ仲のいい二人だから……それだけ、涼風にとって大切な存在である雪緒だから、榛名が雪緒を守ろうとする気持ちも分かる。

 あたしも、本音をいうと雪緒には留守番をしていて欲しい。榛名を連れて行くかどうかは別にして、もしこいつが言ってることが本当なのだとしたら、今は安静にして、少しでも長く、涼風と一緒にいて欲しい
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