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俺の涼風 ぼくと涼風
番外編
熨斗をつけて返す
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逐艦の艤装をつけたあなたが行くよりも、戦艦の榛名が行ったほうが、涼風ちゃんを助けられるじゃないですか! あなたは、涼風ちゃんにとって大切な人じゃないですか!」
「ゲフッ……ゲフッ……」
「そんなあなたを、危険に晒したくないんです! 榛名に行かせてください! あなたの代わりに、榛名が涼風ちゃんを助けますから!! あなたのもとに、涼風ちゃんを送り届けますから!!」

 榛名が、自分の気持ちを雪緒にぶつけた。目に涙をいっぱいためて、雪緒に自分の出撃を懇願する榛名は、何も自分の気持ちだけを優先して出撃しようとしているのではなかったようだ。榛名は、自分が出撃することで、雪緒を守ろうとしているらしい。

 涼風にとっての大切な存在であると同時に、ただの人間である雪緒。その雪緒がこれから向かおうとしているところは、命の危険がつきまとう場所だ。涼風の発信機が指し示す場所は、深海棲艦がよく出没する海域だと提督は言っていた。ともすると涼風を奪還する過程で、深海棲艦と戦う事態になるかもしれない。そうじゃなくても、涼風を誘拐したのは、あのノムラだ。素直に涼風を返すとも思えない。

 数え上げればキリがないほどの危険が、あたしと、雪緒を待ち受けている。そんな場所に、涼風にとって大切な存在である雪緒を行かせるわけには行かない。だから自分が雪緒の代わりに行く。……榛名が言いたいのは、きっとこういうことだろう。

 だが、それを受けての雪緒の次の言葉は、あたしと榛名を絶句させた。

「ぼくは……ゲフッ……もうすぐ、死にます」
「え……?」
「……?」

 あたしは最初、雪緒の言葉の真意を測りかねていた。そしてそれは榛名も同じだったようで、雪緒の言葉を受けた榛名は、改めて、うろたえ始めた。

「雪緒くん、今、なんて……?」
「ぼくには、もう……ゲフッ……時間が、ないんです」
「雪緒、お前……」

 相変わらず、雪緒はあたしに背中を向けているから、雪緒がどんな顔をしているのか分からない。でも、その身体は、堂々と榛名の前に立ちふさがり、榛名の一切の抵抗を許さず、その場に留めていた。

「ぼくは、病気なんです。亡くなった母と同じ病気です」
「……」
「東京に行ってたのも、ぼくの、ゲフッ……病気の進行を調べるためです」
「……」
「検査の結果は、父さんは何も話してくれませんでしたけど……きっとダメです。苦い薬も、最近のぼくの咳も……全部、死ぬ前の母さんと同じだから」
「……」
「……何より、父さんがぼくの出撃を許したってことは……」

 そこまでいうと、雪緒は言いづらそうに押し黙る。少しうつむき、視線を下げたことが、雪緒の背後から見ているあたしからもよく分かった。

「……雪緒くん、卑怯です」
「……ッ」
「そんな顔で……そんな
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