番外編
熨斗をつけて返す
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督と涼風に許可をもらって第一艦隊を離脱した。別にアタシじゃなくても、防空艦なら他のやつもいる。だったら一日ぐらい、サボっても文句は言われないはずだ。
そうしてフラフラと向かった先は、軍病院前の桜の木の下のベンチ。ここはとても景色がキレイで、軍病院のバックには緑色の山々が連なってる。振り返れば大海原が一望出来て、景色を眺めるのがとてもキモチイイ。
そうしてしばらく眺めていたら、妙に豆大福が食べたくなった。まだここに来て間もなかった相棒が、涼風と一緒に、うまそうに豆大福を頬張っていたのを、フと思い出したからだ。
――ねーすずかぜー? んー……
そんなのを思い出してしまったら、誰だって豆大福を食いたくなる。あたしは一度間宮に戻り、そして豆大福を二つ買って、このベンチに戻ってきたところだった。
ベンチにあぐらをかいて座り、大海原を眺める。サラサラと心地いい桜の葉っぱの音を聞きながら、紙袋を開く、大きくてうまそうな豆大福が二つ、あたしの前に姿を表した。
「雪緒も食いたいかもしれねーけど、お前は涼風に頼め。この二つはあたしんだ」
涼風と一緒に出撃しているはずの雪緒には聞こえるはずはないが、つい断りの言葉をポツリと口ずさむ。二つの豆大福のうちの一つを手に取り、それを口に運んだ。
「ぅぉぁぁああーん。はぐっ」
途端に口の中にひろがる、あんこの甘みと、ほのかに感じる、豆のしょっぱさ。
「……たしかにうまいな」
これは……あの二人が幸せに浸る理由もわかる。
「んー……幸せだ……」
まさかあたし自身も、あの時の二人と同じ顔をするとは思ってなかった……。暫くの間、太陽のポカポカ陽気と風の心地よい冷たさ、そして豆大福の幸せを堪能した。
豆大福を一つ平らげた後、あたしは両手で自分の頭を支え、薄水色に高い空を見上げながら、あの日のことを思い出していた。
正直なところ……あの時、ゆきおを鎮守府に残してあたしだけ出撃したら、どうなっていただろう……そう思うことも、無くはない。そうすれば、今頃アイツは今も命を長らえて、涼風と一緒に、楽しく過ごしていたのかもしれない。
でもあの時、雪緒は確かに艦娘だった。
あとで涼風に聞いたのだが、あいつは自分のことを、『改白露型4番艦』と名乗ったそうだ。あたしたちの前で艤装を操って見せたし、名実ともに、雪緒は艦娘だったんだと、あたしは思う。男のくせに『艦娘』ってのはどうかと思うが……まぁいいか。あいつ、女みたいな顔してて、身体も細っこかったし。
だったら……あたしたちの仲間で、一人前の艦娘だった雪緒が自分で決断したことを、あとからあたしがどうこう考えるのは、なんだか雪緒に失礼な気がした。あたしのせいで雪緒が沈んだなんて考えていた
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