暁 〜小説投稿サイト〜
俺の涼風 ぼくと涼風
番外編
熨斗をつけて返す
[1/12]

[8]前話 前書き [1] 最後
「摩耶姉ちゃん!! ゆきおが……!!!」

 船上で、忌まわしいノムラと挌闘しているはずの涼風の悲鳴が聞こえた。だけどあたしは今、あいつらを助けることが出来ない。

 私は今、無数の深海棲艦に身体を蹂躙されている。雷巡チ級の集団からは遠目から絶え間なく砲撃され、近場の雷巡チ級には身体を押さえつけられ、身体は駆逐ハ級どもにのしかかられ噛み付かれ、身動きが取れない。

「クソッ……涼風……雪緒……ッ!!」

 ボートの方向に伸ばした左手は、新たなハ級に齧られた。喉にもまとわりついてくるから息もしづらい。顔面にも噛み付かれてる。息がくせえ。よだれを垂らすな気持ち悪い。

「ふざ……けるな……くせえぞ……口が……!」

 不快な生暖かさを感じるハ級の呼気を鼻に感じた。あたしは顔面に齧りついたハ級を引き剥がそうと右手を動かすが、その右手は雷巡チ級に掴まれ、押さえつけられた。

 不意に、ガシャリという音が鳴り、あたしの顔面にガシガシとかじり付いていたハ級が離れた。その向こう側にいたのは、雷巡チ級。

「……ッ!!」

 チ級が、左手の砲をあたしの顔面に向けていた。

「……クソがッ」



 話は1時間ほど前に遡る。あたしは出撃ドックで艤装を装備し、今回の相棒が水面に立つのを待っていた。

「雪緒、立てるのか」
「大丈夫です。一度、ゲフッ……立ちました」

 涼風の艤装を身につけた雪緒が、人間とは思えない器用さで艤装を使いこなし、水面に立っていた。雪緒が『ぼくも行かせてくれ』と提督に詰め寄り、提督も『惚れた女を取り返してこい』と了承したのは、正直予想外だった。

 涼風の発信機からのモニター情報によると、ノムラのクソが涼風を連れて向かっている先は、深海棲艦の出現が多発する危険区域……。

「なぁ雪緒」
「はい」
「あたしは涼風と違って甘くねえからな。自分の身は自分で守れよ」

 器用に主機を回し、あたしの隣に並んだ雪緒にそう話しかける。今から向かう場所は演習場でもなければこいつら二人が散歩した平和な沖なんかでもない。戦闘が発生すれば、怪我だってするかもしれない。いよいよの時はあたしが助けるとしても、その覚悟はしておいてもらわないと。

「ケフッ……分かってます」

 意外なほど冷静に雪緒は、私の顔をまっすぐ見て答えていた。この野郎……涼風と同じぐらいの背格好のくせしやがって、随分肝が据わってやがる。自分が大怪我するかもしれない場所に向かうってのに、返事に迷いがない。

「待って下さいッ!!!」

 そろそろ出発するかと主機に火を入れたその時、あたしたちの背後から榛名の声が聞こえた。あたしと雪緒の主機の音が鳴り響くこのドックの中で、それに負けないほどの大声を張り上げた榛名を振り返る
[8]前話 前書き [1] 最後


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ