第四話 友
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「……話が飲み込めないのだが」
「何度でもお話しして差し上げましょう」
何故だかとてもワクワクし始めていた因幡に困惑を隠せない紫雨。
とっくの昔に死んでいた。その事実と今こうして呼吸が出来ているこの事実がひどくフワフワとした気味の悪さを演出していた。
腰が抜けた、まではいかないものの妙に気が抜けてしまっている。これではいけないことも分かっている。すぐに切り替える必要がある。
目を閉じ、深く息を吸い、そして吐く。身体の奥深くにストンと降りて来た重心。ああ、戻ってきたのだ。
平静を取り戻すまでに時間を掛け過ぎた。まだまだ修行が足りないと酷く痛感した紫雨である。
「その、因幡殿は今、友となってくれるとそう言ったのか?」
「え、ええっ! その通りです! 私が! この因幡月夜が! 東雲さんのお友達となってあげましょう!」
どこか必死さが見て取れるが、それはそれ。ご厚意を受け取らずして何が東雲紫雨か。
死闘の果てに紡がれる友情があるはずと、昨日の敵は今日の友であると、本気で信じていた紫雨が選び取った道は至極単純である。
「いや、因幡殿。その言葉はまず、私から言うべき言葉だ」
居住まいを正した紫雨。
因幡の言いたい事は十全に理解した。どういう意図が込められ、そしてどのようになりたいのか。
分からぬ紫雨ではない。人の機微には聡いのが長所であり、短所なのだから。
だから、だからこそ今、勇気をもってそのような好意を向けてくれた因幡へは最上の敬意を示さなくてはならない。間違っても無下にするだなどという選択肢はない。
それに応えぬこと、それすなわち己が士道を外れることを意味する。そのような恥ずかしいことを一体どこの誰がしようものか。
気づけば紫雨は、因幡へと手を差し出した。
「流血の果てにも、築かれる友情があると私は思う。だから、敗者の私から言うことが許されるのなら、私と――友となって欲しい」
「…………え、っと」
「お嬢、こういう時に返す言葉はたった一つですよ」
因幡月夜は困惑していた。
今までの人生でこちらの方から“友”となる機会を持ちかける事はあれど、相手の方から“友”になることを申し出られるという経験は無かった。
本当に、そのような経験は無かった。生まれのせいなのかは分からぬが、こちらから持ち掛けることはあれど相手の方から……と言うのはまるでない。
だからこそ、分からなかった。自分の発言一つが折角の千載一遇のチャンスを無駄にしてしまうことぐらいは分かっていたから。
故に分からなかった。なんと返事をすれば、良いのかが。
「……私、東雲さんに何と返せば良いのか、分かりません」
何とか捻り出せた言葉はたったのそれだけ。逆にそれしか言えなかった。
その
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