第四話 友
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可愛い顔も出来るのだな!」
「なっ……!? ちょ、今、その、私の名前……」
「もう友だ。生憎と私は無骨者故、友の扱いはこのように粗暴なものだ。気に障ったなら許してほしい」
「い、いえ! そのようなことはありません、私は特に気にしてはいませんから――その、ぇっと……むしろ、しのの――さんからそう呼ばれるのは悪い気がしないというか、嬉しいというかその…………」
「先刻も言った。私達は友だ。なれば月夜殿の好きな呼び方で良い」
その言葉で、背を押された気がした。だからなのか、するりとその名を口に出来たのかもしれない。
「し、しうさん、――――紫雨、さん」
「応さな」
パァッと花が咲いたような笑みを浮かべた後、月夜は紫雨の胸へと飛び込んでいた。
誰かに強制された訳でもないが、何故かこうしたかった。
その感情を紫雨は十全に理解していた。安堵だろう、と。何せ自分も似たような感情だ。友に年齢はない。自身も、そう多くは無い経験にどっと疲れが出ていたのは間違いない。
ましてやこのような齢の子供である。
むしろ紫雨は腸が煮えていた。このような年端もいかぬ子供を、一体どこの誰がこれほどまでに“不自由”にしていたのだろうと。
「すぅ…………ぅ」
「……眠った、か?」
「お、お嬢!? 眠っちまったんですかぁ!?」
「……よほど珍しいことなのですね」
「当たり前じゃねえですか! あの隙のねえお嬢が人の前で眠る!? これは、なんつーか、もう……」
先程からエヴァンの脳裏で繰り広げられている計算があった。それは主である因幡月夜へと背くことにすらなり得る事柄である。
この東雲紫雨を抹殺するべきか否か。
邪なる心を持っているのならばそれは必然、しかして正なる心を持つ者ならば――いくら自分とは言え、古風ながら切腹を視野に入れなければならない。
まこと、悩ましい人間であった。分かりやすいほどに卑しい人間だったら良かったのに――そうすればこの懐に忍ばせている二刀の鎌を抜くことに、何ら躊躇することは無かったのに。
「寮母長殿。月夜殿と、貴方の間に如何様な関係があるのかはあえて聞かぬ。だからこそ、その戦気を僅かでも削いで頂ければ僥倖」
「……見抜いてやがったんですか?」
「仮に抜く気があったのならば……寮母長殿の業前だ、私の胸の内は決戦を覚悟していたであろう」
濁すことなく、そう言い放つ紫雨に、エヴァンは気づけば笑っていた。あまりにも可笑しくて。そこまで見透かされていて、そのようにリラックスされていればそうもなろう。
エヴァンも全く同じ感想を抱いている。先程の立ち合いで東雲紫雨の実力は十二分に感じ取ってしまったのだ。
因幡月夜が持つ最大にして最強の魔剣――『雲耀【瞬光】』。
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