第四話 友
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ことを良く分かられていたのか、紫雨から出た言葉は非常に優しく、だけど決して甘やかなさないもので。
「因幡殿は既に答えを知っている。ただ、それを思い出せないだけだ」
因幡の手を取る紫雨の顔にはいつもの仏頂面はなく、代わりに見せていたのは微笑であった。彼女を知る者ならば珍しがるこの場面、そんな事露知らず。
その事には考えを巡らせず、ただ因幡は次に言う言葉を言いあぐねていた。
この方、友達など作った覚えのない身である。自分の無意識な一言が今こうして友となってくれると言ってくれる者を傷つけることになりかねない。
刃を向けてくる相手ならば簡単であった。ただ斬り伏せれば良い。己が誇る神速を露わにすればいいだけであったのだから。それだけが、自分の出来ることだったのだ。
そんな無双を振るえる自分が、今こうして生まれたばかりの鹿の如く、震えていた。唇が、なんと動かぬことか。
それでも紫雨は待っていた。どれほど時が経とうと、それを待つだけである。
対する因幡は無意識に浮かび上がる言の葉があった。良いのか、ソレを口にして、本当に良いのか。それを言ってしまえば良い結果だろうが悪い結果だろうが、“終わって”しまうのだ。盲目が災いし、視線は自然と紫雨へ。
――それだ。
紫雲の無言の気配が、そう言っていた。生憎と因幡が頑張れる最大の最大がその言葉。それ以上もそれ以下も無い。それしかもう口を突いて出ない。
なればもう、当たって砕けるしかなかった。これでダメならもう――“諦め”るしかないのだろう。まこと、悲しい事だが。
「もう一度言おう。因幡殿、私と友になってはくれないだろうか」
「…………はい。よ、よろ、しく、お願い……します」
ただでさえ白い肌だったので、耳まで真っ赤に染めた因幡を見た時はまこと色鮮やかだとさえ見て取れた紫雨。
その事に触れるほど無粋ではない。
今はただ、良好な関係となれたことをひたすら噛み締めるのみであった。
「善き。まこと、善き」
予想していた事とは言え、エヴァンは内心驚いていた。
自分だからこそ知っていることがある。友達を求めているくせに、兎のごとく臆病な自分の主が、こうまでスムーズにいくことなどただの一度もない。
これを口に出せば、今の自分でさえ首を飛ばされかねない自信があるからこそ、心中のみで言えることがある。
(この素直じゃないお嬢をよくもまあ、ここまで懐かせやがったもんですねぇ)
称賛。エヴァンの胸中から出たのは、悪態をつきながらの称賛であった。
しかして、そのような事を感じ取れるほど聡くはない紫雨はあっけらかんと言ってのけた。
「なんだ“月夜”殿! 仏頂面しか見られないと思っていればこれはなかなか、
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