遺愛
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月》の柄を握る俺に対して、リーベは頬を紅くして何やらメニューを操作していた。
「でもあんまり見ないでね。すっぴんだから恥ずかしいし」
そうしてシステムメニューを操作するとともに、服装が地味なエプロンドレスから漆黒の中に紅色が混じった、ネグリジェのような扇情的なドレスへと書き換えられる。髪型も無造作に伸ばされていたままだった黒髪にトリートメントが入り、サラサラと川のように流れた髪を一本に纏めたポニーテールへ。そのまま舞踏会にでも行きそうな格好だったが、そのドレスはまるで返り血が固まった血錆のようで。
「ふぅ……改めて。はじめまして、ショウキくん?」
《GGO》の時の小柄な踊り子の時とも、先程までの店員NPCのふりをしていた時とも、どちらとも全く違うパーティーに行く淑女。そうしてこちらに歩いてくる、ドレスから覗く足を見てみれば、履かれているのはキラキラキラキラと輝くガラスの靴。そのシンデレラ気取りのアバターを見れば、先に現れていた踊り子のようなアバターがサブのアカウントだと分かる。
「えへへ。久々にお兄に会いに行くんだから、気合いを入れないとねっ! って、あー……外ではお兄って呼ばないように、って怒られてたのに……でもショウキくんならいいよね! 交換日記する仲だもん!」
「交換日記?」
「うん。ショウキくんのことをもっとよく知りたいから! 恥ずかしいけどウチのことも書いたし、ショウキくんも後で書いてね?」
……どうやら、途中から白紙だったのは書くのを止めた訳ではなく、俺の分を書くためのものだったらしい。周囲に流れる緊張感とは裏腹に、間抜けな問答が交わされてしまったことをいいことに、一つ、気になったことをリーベに問いかけた。
「俺の書いた日記、お前は死んだらどうやって見るんだ?」
「え? ショウキくんも一緒にお兄のとこに逝くんだから。その時に書いてくれれば読めるじゃない?」
プロポーズみたい、恥ずかしい――と、自分の発言の後に悶絶する彼女を見て、改めて分かりあえないのだと確信する。デスゲームで唯一の家族とも言える兄を亡くした彼女は、確かに無事に生還できた俺に比べて不幸なことは確実だろう。しかしてそれは、他の人間を巻き込んで自分勝手な自殺騒ぎを仕組んでよい理由になるはずもなく、彼女の兄のためにもリーベを止める他ないと覚悟する。
「もう! プロポーズは男のこの方からでしょー?」
「……そうだな」
アインクラッドに初めて訪れた3月。それはアインクラッド解放軍が25層で壊滅的な被害を受けた月であり、交換日記によればリーベの兄が亡くなった月であり、俺がまだ恐怖心で1層にいた頃だ。彼女の兄がアインクラッド解放軍に所属していたかは分からないし、自分がいれば彼を助けられたなどと自惚れを
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