遺愛
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ギアはすでに機能を停止しており、兄の表情はこの世のものとは思えぬ苦悶の表情に固定されていて、バイザーの中で瞳はただただ虚空を見つめて動かずに兄は応えない。
「お兄が死ぬわけないじゃん。どんなゲームでも上手かったし……まだウチ、完璧にお兄に勝ったことないんだからね!」
兄は応えない。兄は応えない。兄は応えない。兄は応えない。兄は応えない。兄は応えない。兄は応えない。兄は応えない。兄は応えない。兄は応えない。兄は応えない。兄は応えない。兄は応えない。兄は応えない。兄は――
「だからお兄、ちょっと待っててね。すぐに助けにいっちゃうから!」
――日記のページを捲る。
……兄が《SAO》に囚われてから、愛はずっと自らもあのアインクラッドに行くことを考えていた。最初はデスゲームに参加することになった兄を救いに行く、その一心だったはずだが、当然ながらただの中学生の愛に未プレイの《SAO》が入手できるはずもなく。それでも諦めまいと回収されていた関連商品やインタビューを集めて、VR空間についての知識を頭の中につぎ込んでいた。
それだけを繰り返し狂気的にアインクラッドを求める生活は、《SAO》がクリアされたという知らせを受けても変わることはなかった。もはや《SAO》はクリアされ、目的としていたアインクラッドも既に崩壊している。それを知ってもなお、兄を求めていた愛が兄の死を受け止めたのは、それから《ALO》で起きていた事件が終わりを告げてからだった。
「意識不明だったSAO生還者……目を覚ます……」
以前とは見違えた《SAO》に関しての資料だらけの部屋で、愛は更新されたニュースサイトの記事をパソコンで見ていた。デスゲームはクリアされたにもかかわらず、未だに目覚めていなかったSAO生還者たちが意識を取り戻した、という記事だ。その記事を見て、愛はある疑問に囚われていた。
「なら、お兄はなんで帰って来ないのかな……あ、死んじゃったんだ」
幸いにもその疑問の解答は素早くもたらされた。聞いた時は意味が分からなかったが、そういえば叔父たちから葬式の連絡が来ていた気がする、と愛は今更ながら思い返した。兄がデスゲームで亡骸となってから、そのデスゲームも終わりを告げていて、新たな事件の終結でようやく兄が死んだという現実にたどり着いたのだ。
「ならVR空間で死ねば、お兄に会えるんだね!」
そしてその現実のおかげで、愛は光明を見いだすことが出来ていた。VR空間で死んだところに兄はいると、その出来事によって確信できたのだから。ただし問題は、VR空間で死に至るようなことは、それこそデスゲームであった《SAO》ぐらいでしか無い。事実、愛も全く方法などは見当もついておらず。
「それじゃ、色々と試さないとね〜」
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