23. 涼風。……と、ぼく。
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った。摩耶姉ちゃんはいつも通り、ニコニコ笑顔で私を出迎える。
「よっし、行こうぜ」
「うんっ」
ドックに向かう途中、今日は榛名姉ちゃんも第一艦隊に編入されるということを摩耶姉ちゃんが教えてくれた。どうも今日の海域はいつもよりも敵の戦力が高いらしい。そのためこちらの戦力強化の意味で、この鎮守府で最強の名を欲しいままにする、榛名姉ちゃんも編入されることになったそうだ。
――俺の義理の娘を守ってやってくれ
榛名姉ちゃんは提督にそうお願いされ、そして二つ返事で了承したらしい。久しぶりの、榛名姉ちゃんとの出撃。私と摩耶姉ちゃんと榛名姉ちゃん……みんなで出撃出来ることが、何と無しに嬉しかった。
ドックに到着すると、私と摩耶姉ちゃん以外のみんなは、すでに出撃準備が整っていた。
「今日はよろしくお願いしますね」
すでに水面にたち、いつでも出撃出来る状態の榛名姉ちゃんがそういい、微笑んでくれた。いつかのような、辛辣な言葉はない。私に対する優しさのみが、その言葉には込められている。
「おらっ。出撃すっぞー」
摩耶姉ちゃんが両肩を回しながら、艤装の準備にとりかかった。榛名姉ちゃんから借り受けてた、あのダズル迷彩の主砲も似合ってたけど、やっぱり摩耶姉ちゃんは、今の、本来の艤装がよく似合う。
私も自分の艤装をつけ、主機をはき、みんなの待つ水面に立つ。準備が整った。皆がいつでも出撃出来る状態になった。
そして。
「……ゆきお」
左の薬指が、むずっとした。きっと今、ゆきおが私の左手を握っている。
「行こうぜ」
消毒薬の香りが、私の身体を包み込んだ。ゆきおは今、私と一緒にいる。私を守ってくれている。
――うん
主機を作動させ、加速力をためる。私達の足元から背後に向かって水柱が立ち、私の背中に背負われた魚雷発射管をぱしゃぱしゃと濡らす。狙うのは、あの日のロケットスタート。あの日に私がゆきおを連れ出して、あの日にゆきおが決めてくれた、私たちの得意技。
「みんな! 行こうぜ!! 全速ぜんしーん……」
艦隊のみんなの『了解ッ』という返事が聞こえた。それを合図に私は、溜めに溜めた加速を開放する。きっと付いてこられるのは……同じ改白露型で、私と二人で一人、名コンビな、一人だけ。
「よぉぉおおおそろぉぉぉおおおお!!!」
『ドカン』という音と共に、猛烈な速度で前方に弾き飛ばされる私の身体。摩耶姉ちゃんも榛名姉ちゃんも他のみんなも、その場に取り残されていった。みんな大慌てで主機を作動させ、そして私に追いつこうと、必死に私を追いかけてくるのが見える。
だけど私の予想通り、カーディガンからほのかに漂う消毒薬の香りだけは、私から剥がれることはなかった。
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