第三話 雲耀
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ぱ》れな抜きなり!」
完全敗北。
神速。自分が未だ辿り着かぬその領域に踏み込んでいるのが年端もいかぬ少女だという事実。それを疑うことすなわち自らの見分の狭さを見せびらかすことに繋がることは明白。
なればこの敗北者の唇から紡ぐのは恨み言でも何でもなく、ただ――。
「殺せ。私は勝てると確信し全霊で当たり、そして負けた。なれば首を取られるが筋であろう」
このいい意味での変わり身の早さに、因幡はなんと言葉に詰まった。
自分が知る人間にこれほどの潔さを見せる者はいない。否、これから出会うのかもしれないが、今の自分の見分ではこの東雲紫雨が“初めて”。
だからこそ、聞いてみたかったのかもしれない。
「貴方は何故、それほどに“お姉様”へ執着するのですか?」
「執着? そのような下品な感情に支配はされていない」
「なら、どういう感情なのでしょうか?」
「挑戦。現世最強と謳われる剣士が今も尚、健やかにこの世にいるのだ。なれば挑戦するが剣士の任務と言えよう」
因幡は思わず肩を落としそうになった。
何故、これくらい真っすぐなのだろう。そう思えるくらいには“真っすぐすぎた”のだ。
正直な言葉、精悍な剣筋。ある意味、自分よりも子供だと思えるくらいに、紫雨には一本の芯が通っていた。
「しかし、これほどの腕前とは思わなかった。子供とタカを括るつもりはなかったのだが」
「いいえ。別に悔やむことはありません。私と貴方では――」
余りの感動に、紫雨は因幡の言葉を待つ前にこんなことを口走った。
「無念。このような者ともっと早くに出会っていれば友となり、共に剣の道を歩めただろうに――」
「――その話、詳しく聞かせてもらいましょうか」
刀を収めるなり、ツツツと近づいてきた因幡に流石の紫雨も面食らう。
「……いや、別に、聞かせる程の話でも」
「貴方にとっては聞かせる程でなくとも、私にとっては重要なお話なのです」
「……戯言だぞ」
「私は勝者です。だったら、敗者の話を聞く権利があるのです」
「それも一理ある」
「だから、その、お願いします」
敗者の務め。それを噛み締めた紫雨は恥ずかしげもなく語りだした。
「こほん。因幡殿の剣速は神速の域と思い知った。なれば、同じ時間を共有することでその秘訣なりを掴み取れれば、との敗者の浅ましい願望だ」
「……良いでしょう」
しばし、飲み込むのに時間が掛かった。今の言葉は流石の紫雨も聞き取るにはさほどの時間を要した。
「私が! その、東雲さんのお友達となってあげて……えっと……そう! 共に剣術を磨いていきましょう!!」
「ん、んん……?」
何やら非常におかしな方向に話が転がって来たと、そう物凄く不安にな
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