第三話 雲耀
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れば、今の私が打てる最速で仕るッ!」
“感謝”。
途方もない強者の風を肌で感じ取っていた紫雨はこんなにもあっさりと挑めることに対して、感謝してもしきれなかった。
ここで地に伏すならそれまで。自分はまだ井の中の蛙だ。大海を知らぬ者がどうして海に出られるのだろうか。
「……お嬢、あんまり無理しやがらないでくださいねー」
付き人であるエヴァンは言いながら、紫雨の出で立ちに注視する。
(ありゃあその辺の生徒じゃまるで相手になりやせんね。しかもあのギラついた眼は何ですか。あの眼はそう――武士)
甘めに見積もれば五剣に届きうるやもしれない。しかし、それはあくまで見積もり。
しかし目の前に立つは五剣の最上。
むしろ、如何に健闘して見せてくれるのか。それだけがエヴァンの興味。
「あと一度だけお聞きします。自慢では無いですが、“抜き”には多少の自信があります。後悔することになりますがよろしいですか?」
「後悔? 聞いたことのない言葉だ」
「良いお返事ですね」
静寂。しかし、息遣いは聞こえる。互いが微動だにせず、その時を待つ。
一度抜けば、後は眼前の敵の血を浴びるまで収まることが無い。非情な一方通行。だが、それを所望するのが東雲紫雨なのだ。
――――時間にして刹那。
膝を付けていたのは、
「……」
「……」
東雲紫雨である。
「私の首を取るには、あと一振り足りなかったですね」
因幡の言う通り、であった。腹部から這いよるかのような鈍痛。切られてはいなかった。しかして峰打ちが痛くないわけではなく、呼吸がままならない。
これが真剣だったならば。今、自分の腹からは臓物が零れていたところであろう。
死んでいた。はっきりと、そして確信をもって言える。自分は今の立ち合いで命を落とした。これは疑いようもなく、そして心から受け入れられる事実である。
紫雨は余りの衝撃にしばらく思考が纏まらなかった。
――三振り。
目の前の少女は閃光にも満たない時間の中で、自分に三振りをくれてやっていたのだ。
「三、撃……ッ!!?」
「ほよ? “分かった”のですか?」
「分からぬものかッ!! 私の抜刀は二度。しかしてその二撃を正確に迎撃し、尚且つ感じた痛みは一度。つまり、あまりに認めがたい事実だが、今の、たったの一瞬で、三度振るったと考えるが妥当……ッ!」
色々と、言いたいことがあった。しかし、まずはこの言葉から口にするが礼儀というものである。
紫雨は恥ずかしげもなく、地面に座り込んだ。因幡ですら理解出来ぬ行為。その疑問が出る前に早く、紫雨は言い放つ。
「天晴れ! まこと|天晴《あっ
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