第三話 雲耀
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のでしょうか? 一応、私もエヴァも、隠すのはそれほど下手くそではないと思うのですが」
「東雲一刀流は風を読む故。僅かでも不穏な大気の動きがあれば、気づくのはそう難しい事ではない」
「練磨で培った超感覚、ある意味私と似たような事をしているのですね」
言いながら、少女は眼を開いた。
その眼を見た紫雨、不覚にも全身が強張る。しかし、それだけだったのは僥倖中の僥倖。
――紅い瞳。
そのような瞳の色は世界でたった一つしか知らない。
剣の鬼。現世最強の女剣士を筆頭とする集団。
辿り着くことを紫雨の悲願としているその一族の名を、他でもない彼女自身で口にした。
「――『鳴神一族』。鳴神の者か……ッ!!!」
「ほよ。その名を知っているのですか。ですが、正確には私は鳴神の姓ではありません。私は『因幡月夜』です」
因幡、名は違えどもその瞳の色は紛れもなく手掛かりなのだ。
「垂らされた蜘蛛の糸とはまさにこのことか……ッ!」
竹刀の構えを崩さぬどころか変えた紫雨へ、因幡は一言。
「ガッカリです。あろうことに“抜き”で私に挑もうと言うのですか」
鞘から抜き放たんばかりの構え。暗殺の剣、東雲一刀流にも抜刀術は存在する。
しかして、紫雨は因幡月夜が住まう神速の領域を知らずにいた。
話にも聞かぬイレギュラー、だが鳴神への窓口。この時を逃す紫雨ではない。否、元より逃すという選択肢は無かった。
それが、如何な鬼であろうとも。
「質問です」
「聞こう」
「東雲一刀流。私はその名を良く知っています。その上でお聞きします。貴方の探し人を、貴方は“何と呼んでいるのですか”?」
これは振り分けであった。そして、その“意味”は紫雨も父から良く聞かされていた。
関係者かどうか、ここで自分が恍ければ、もう二度とこの話題が出ることはあるまい。無事平穏を送ることになるのだろう。
――そんな空想をしばし楽しみ、すぐに投げ捨ててやった。
「鳴神虎春は何処へ?」
「貴方にまだ、“お姉様”は早いと思われますが。それでも聞きたいですか?」
「いずれ通る道故に」
「それこそガッカリです。人には届かない領域というものがあります。貴方にはそれを知ってもらう必要があると考えています」
「……ふ、ふふ」
「何故笑うのですか? 恐怖でおかしくなりましたか?」
そんな訳はない。因幡の“耳”は寸分の狂いもなく捉えていた。
今、自分が相対している東雲紫雨の呼吸に一切のブレはない。平穏も平穏。先ほどまでは僅かに乱れがあったのは間違いないが、それでも今は波一つなし。
ある意味“珍しい”紫雨が言ってのけた言葉とは――。
「いや、かたじけないと思ってな。な
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