第二話 必殺剣、仕る
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右手で顔の高さまで上げた竹刀の切っ先を倉崎に向け、左手は刃部に添える。
今から行うは東雲一刀流が絶技の一つ。
腰を深く落とし、心を水面の如く平静にする。そこから蓄えた力を爆発させるその瞬間こそ――。
「倉崎殿、右井殿。心して、全霊で打って来い。私の剣はそれを畳み返す」
勝負所。倉崎と右井の交わしたアイコンタクトは一瞬、だが情報量は膨大。
基本は変わらず、倉崎が動き、右井が仕留める。
必殺剣と紫雨は言った。なればどちらかが受ければ、その隙は度し難いものとなる。そこを一息に撃滅する。
倉崎と右井の腹は決まった。あとは実行する時を伺うことだけ。
対する紫雨の意思も既に不退転。
その瞬間は、示し合わせた訳ではなく、自然と訪れた。
「ぃやぁぁ!!!」
倉崎が突撃した一拍後に突撃する右井。隙の無い二段構え。
だが、その隙さえこじ開けるのが東雲一刀流の務め。
放たれる絶技、その名は――。
「――東雲一刀流奥義、仕る」
風が吹いた。その風は暴風なのかもしれない、もしくはそよ風なのかもしれない。受けた者だけが知る風なのだ。
感じた手応えは確かなもので。溜めた呼気を吐いた次の瞬間には、二人は地に伏した。
「見事なり」
紫雨は瞠目し、一礼していた。どれほど拗れた関係になろうが、その相手に対する敬意だけは忘れてはならない。これ、東雲一刀流の心意気。
だが、生憎まだ二人を沈めただけ。邪魔立てする残りに眠ってもらおうと“次”へ意識を向けると、紫雨は少しばかり安堵した。
「力の差、理解して頂けたようで。なれば私はこの剣を納めよう」
戦意を喪失していた。もはや道を塞ぐ者は誰もいないのだろう。ようやく納村の助太刀に行けると、そう思っていた時に外が妙に騒がしい。
窓から様子を見ると、納村が鬼瓦輪を倒していた。刀を持っていた鬼瓦に対し、納村は徒手空拳。如何様な技を使ったのかは分からぬが、それでもあの手練れを倒したということはその技量も相当なもの。
――今日を以て、“二人”が目を付けられた。
一人は自由をこよなく愛する男子、そしてもう一人は竹刀を振るう女子。
この二人へ降りかかるは艱難辛苦。しかしてそれにただひれ伏す東雲紫雨ではない。
狼煙が上がった。理不尽に対する狼煙を上げてのけたのだ。
そんな東雲を見る眼光一つ。
「……東雲紫雨。滅びた剣術流派とされる東雲一刀流の正統後継者……」
あの返し技はまさしく絶妙の域。あれは“届きうる”のか。それだけが今の疑問。
「お嬢様に伝えておくべきかどうか……。それにもう一人、納村不道のことも」
逡巡し、しばしの様子見を選択する。緊急を要するようならば手ずか
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