第69話<お袋の味>
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けた。
「なかなか、普段は話し相手が居らんけんな……」
「あ、そうか」
そうだよな。
実は父親はもともと地の人間ではない。確か九州のほうの出身なのだ。一方の母親は境港が地元だ。
こういう土地で、しかも軍人だったから父親には、この土地に親しい人が少ないのだろう。
「航空機とは、そういう運用も可能なのですか?」
「そうだな」
「へえ」
「日向は、まだ甘いのじゃ」
「利根には言われたくないわね」
そこで笑いが起きていた。
(父親の笑顔か……久しぶりに見るな)
まあ、若い子が相手で、なおかつ酒の勢いもある。それに自分が培った航空機の伝統を受け継ぐ若い世代が身近に居た、ということで喜んでいるのだろう。
私は台所に居る母親に、さりげなく聞いてみた。
「お父さんって空軍のエースだったの?」
彼女は少し間を置いてから答えた。
「空軍でトップ争いしちょったらしいがな……出世と実力は比例せんって良く言っちょるよ。人の操縦は難しいって」
「ふーん」
「それ分かります……」
「え?」
祥高さんが割って入ってきた。
「実は私にも姉妹艦が居るので……彼女たちも人間関係では苦労しているとか」
「へえ、それは初耳だ。詳しく聞きたいな……」
そのとき祥高さんが受電した。
「失礼します」
彼女はサッと窓際へ移動した。
それを見た母親が言った。
「良い副官だが? 良かったな」
「え? ……あぁ」
母親でも分かるか。確かに祥高さんは出来る艦娘だな。
やがて彼女が戻ってきて報告をする。
「司令、大淀さんから指令室は霞を補佐に付け、交代で仮眠しながら任務継続で宜しいでしょうか? とのことです」
「霞? ……あ、あの気の強い艦娘だな」
私の言葉に彼女は苦笑した。
「祥高さん『それで頼む』と返信を……」
「はい」
私は続ける。
「あと……」
「はい?」
「いつも、ありがとうと二人に伝えてくれ」
一瞬、驚いたような表情の彼女だったが直ぐに敬礼をした。
「畏まりました!」
祥高さんも、傍に居た母親も笑顔になった。
実は私自身が一番ホッとしていたのだ。何か、ここに来てようやく美保鎮守府が一つになりつつあるのかな? ……と感じたから。
赤城さんは、ずっと一人で黙々と食べていた。
だが突然、彼女が俯いて肩を震わせ始める。
「おい、調子悪いのか?」
思わず声をかけて近づいた私。
一瞬、緊迫。
だが赤城さんは、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
「ウッウッ、お袋の味って……良いですね」
「えっ? ……あ、まぁ、そうだね」
一同、爆笑。実家の居間は和やかになった。
しかし私は思った。
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