第三十九話 蒔かれた種
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いた。
二つの選帝侯が火花を散らしていた頃、不機嫌な選帝侯も存在した。
それは、西部の雄フランケン大公だ。最も古いゲルマニア貴族で、多くの皇帝を輩出した名家だ。
領地が西部であり、ガリアやトリステインと領地が隣接している事から、戦争になったら先鋒を務めることが多く、『ゲルマニアの壁』などと呼ばれる武門の家柄と言えた。
そんな彼の機嫌が悪いのは、隣のトリステイン王国で内乱が発生した為、介入しようとした矢先に首府のオーノルツバッハで大火事が発生し都市の6割が消失した為、再建までの間フランケン大公領第二の都市フランクヴルトを仮の首府して、遷都の手続きが思いのほか手間取った事が一つ目の不機嫌の原因。
二つ目、三つ目が、トリステイン内乱で逃げ出した逃亡兵が山賊化し領内を荒らしまわっていたり、妻が突然占い師に傾倒し、訳の分からないお告げを鵜呑みにして相手をするのに手間取ったりと、様々な出来事が連続して起きて介入どころでは無かったからだ。
おかげでトリステイン内乱は鎮圧され、絶好の機会を失い面目も失った。
選帝侯の一人、ザクソン大公はゲルマニア中央部から北西部までの広大な領地を持ち、トリステイン王国の有力貴族ラ・ヴァリエール公爵の宿敵ツェツプストー辺境伯はザクソン大公の分家筋に当たり、褐色の肌と赤い燃えるような髪が印象的だった。
ザクソン大公は皇帝には興味は無く、オーストリ大公とブランデルブルク辺境泊のどちらに付くべきか品定めの真っ最中だった。
選帝侯の一人、バウァリア大公は隣のオーストリ大公の繁栄のお零れに預かる事で繁栄してきた経緯から、オーストリ大公に頭が上がらず、いざ選挙となればオーストリ大公に票を手筈になっていた
バウァリア大公は、プライドを捨ててまで繁栄させた首府ミュンヘを、いかにして戦火から守るかそればかり考えていた。
最後、6人目の選帝侯、メインツ大司教はゲルマニア貴族ではなくロマリアから派遣された大司教で、大司教区と呼ばれる土地の裁治権および統治権を有していた。メインツ大司教はゲルマニアにおける最高位の聖職者でロマリア教皇の代理人とされていた。
ゲルマニア国内でロマリア教の影響力を保持する為に、ロマリアがマインツ大司教を無理矢理選帝侯に捻じ込んだ経緯があった。
ゲルマニア貴族は、その決定を受け入れるしかなかった。強大な権力を持つロマリアを蔑ろにする事は出来なかったからだ。
だが、ロマリア教の腐敗は年を重ねるほどに酷くなり、もっとも多くの『お布施』をした選帝侯に票を入れるのが通例になっていた。今ではロマリアの顔を立てるために設けられた接待用の席でしかない。
この場には無く、城の奥で生死の境を彷徨っている7人目の選帝侯。
ゲルマニア皇帝兼ボヘニア国王のコンラート
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