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真田十勇士
巻ノ百一 錫杖の冴えその一

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           巻ノ百一  錫杖の冴え
 後藤は修行の中清海にこんなことを言った。
「錫杖を持たせてくれるか」
「拙僧のですか」
「どんなものか実際に手に取ってじゃ」
 そのうえでというのだ。
「確かめたい」
「だからですか」
「持たせてもらたい」
 こう言うのだった。
「そうさせてもらうか」
「それでは」
 清海はすぐにだ、後藤のその言葉に応え彼の錫杖を持ってみた。鉄で出来たそれを両手に持ってだ。後藤は言った。
「花和尚のものと遜色ないであろうな」
「魯智深ですな」
「水滸伝の豪傑のな」
「あれより軽いものにはならぬ様にとです」
「そう言って作らせたか」
「はい」
 清海は後藤に確かな声で答えた。
「左様です」
「そうか、やはりな」
「作ったものも苦笑いをしておりました」
「あまりにも重いとか」
「ですが」
「花和尚のものとじゃな」
「遜色ない重さです」
 自身の錫杖はというのだ。
「かなりの強さかと」
「そうじゃな、これを振り回せばな」
 それこそというのだ。
「並大抵な暴れ方では済まぬ」
「実際に拙僧の自慢の得物です」
「しかしこれはあまりにも重い」
 後藤は手に取り確かに言った。
「これを操れるのは本朝では御主だけじゃ」
「ですか、やはり」
「うむ、わしには無理じゃ」
 この錫杖を持って縦横に戦うことはというのだ。
「どうにもな」
「では後藤殿は」
「持ってみたがな」
「それでもですか」
「持てるだけでじゃ」
 それは出来てもというのだ。
「操るまでは出来ぬ」
「あまりにも重く」
「そこまでは無理じゃ」
 そうだというのだ。
「よくもこれだけのものを使える」
「そうも言われますか」
「御主はまさに花和尚じゃな」
 そこまでの者だというのだ。
「その力、これまで正しく使ってきたな」
「いや、そう言われますと」
 清海はその魯智深に生き写しの顔で苦笑いで答えた。
「どうにも」
「自信がないか」
「それがし酒も肉もたらふく食い修行も怠けて」
「ちょっとしたことでじゃな」
「暴れてきましたし」
「ははは、それこそがじゃ」 
 後藤は槍を繰り出し清海に防がせつつ話した。
「花和尚じゃ」
「そう言われますか」
「署の花和尚でもそうじゃ」
 清海の様に飲んで食い暴れてというのだ。
「それでいて人の道は外れておらぬ」
「だからですか」
「よい」
 こう言うのだった。
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