22. 本当のぼく
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眩しい朝日が私の瞼の奥まで届く。ゆきおが部屋に戻ってくる前に、私は眠ってしまったらしい。未だに『眠い』と文句を言っている身体を無理矢理起こし、大きく背伸びをした。
「……おはよ」
誰に対して言ったわけではない。強いて言えば、昨日結局帰ってこなかった、ここにいないゆきおへの挨拶。未だに重くて開ききらない瞼をこすりながら、ベッドから出てカーテンを開ける。
「……ん」
途端に山吹色の太陽の輝きが私を包む。お日様は私の身体にぽかぽかとしたぬくもりを届け、私の身体を優しく起こしてくれた。少しずつ確実に、私の身体が目を覚ましはじめていた。
太陽に照らされた室内が、山吹色に輝き始めた。昨日ゆきおと共に過ごした、月明かりの中に浮かぶ綺麗な部屋の中とは違うけれど、自分の部屋とは思えないほどに綺麗だ。
「……結局帰ってこなかったのかー」
スコーンを乗せていたお皿を片付けてなかったことを思い出し、その皿を見ながらぽつりとつぶやいた。
「……んー。やっぱりあったけー」
私が羽織るには袖が長い、ゆきおのカーディガンに触れる。ふわふわと心地いいカーディガンの感触が、私の体をふわりと包みこんでいる。袖に鼻を当てると、ゆきおの消毒薬の匂いがほんのりと鼻に届く。
左手の薬指が、少しむずむずする。左手を見た。昨日ゆきおがくれた二連の指輪が、私の薬指に通されていた。そのことが、私の心を弾ませる。
「へへ……」
ゆきおは昨夜、結局私の部屋に帰ってこなかったようだ。『すぐに戻る』って約束したのに。ゆきおのアホ。約束したんだから、さっさと帰ってきてくれよ。
でもまぁいい。忘れてたのなら、きっと自分の部屋に戻って眠ったんだ。なら、朝ごはんを食べる前にゆきおの部屋へと足を運ぼう。そして二人で食堂に手を繋いで顔を出そう。そして二人で朝ごはんを食べて……考えただけでも胸が踊る。
念の為鏡を見て、自分の顔色を確認する。お化粧の必要はないと判断して、私は急いでゆきおの部屋へと向かった。
入渠施設の前を通り、ゆきおの宿舎の前の、桜の木の下にたどり着く。ゆきおの部屋の窓を見ると……閉まっている。でもカーテンは開いてるみたいだから、起きてはいるようだ。ひょっとしたら、入れ違いで先に食堂に向かったのかな? それとも、昨日の約束の事を思い出して、私の部屋に向かったのかも。
一際冷たい風が、私の体に吹きつけられた。海からの風はとても冷たく、きっといつもの服装をしていたら、寒くて寒くて私は凍えていただろう。
でも、今日はゆきおのカーディガンがある。風のことを冷たいと思っても、不思議と寒いと思わない。むしろカーディガンがぽかぽかと心地良く、ふわふわとした感触が、私の心を温めてくれる。
左手の指輪
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