22. 本当のぼく
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渡すもんだ』て笑いながら言ったのを、覚えてたんだなぁあいつ……」
提督がククッと喉を鳴らして笑う。言われて思い出した。ゆきおは確か雑貨店で、私をお店の外で待たせて、他のお客さんにもみくちゃにされながら店内に消えていった。そしてノムラの恐怖で震える私の前に戻ってきた時、確かに何か荷物を持ってたっけ。
……あれは、この指輪を作るための材料だったんだ。あの日からしばらく、ゆきおは目の下にクマを作って眠そうだったけど、毎晩、必死にこの指輪を作ってたんだ……。
提督はその後、なぜゆきおがこの鎮守府に来たのか、そして東京で何をしてきたのかを、教えてくれた。
「ゆきおはさ。病気だったんだ。俺の妻と同じ病気で……キツい治療やら苦い薬やら何やら、けっこう色々頑張ったんだけど、一向に改善しなくてさ」
「……」
「で、去年の夏ごろだ。最後の願いってわけじゃないんだが……ゆきおに『何やりたい?』て聞いたら、あいつ……」
「『艦娘になりたいっ』て言ったとか?」
「よく知ってんな」
「ゆきおが教えてくれたんだ。自分は男の艦娘の第一号だって」
「ほーん……」
提督が苦笑う。本当はちょっと違うけど。ゆきおは、『艦娘の適性があったからここに来た』って言ってたけど。ひょっとしたら、本当のことを言うのが恥ずかしかったから、そう言ったのかも知れない。なら、私は黙っておこう。
それで、折しもこの鎮守府に、軍医療施設を建立する計画が立ち上がり、ゆきおの最期の願いと、少しでも病気の進行を遅らせることに希望を持って、ゆきおは、この鎮守府に来たという話だった。
一度東京に出たのは、ゆきおの病気の進行具合を確認するためだったらしい。もしそれで病状が改善されていれば、ゆきおは手術を受ける予定になっていたそうだ。
「……結果的にダメだったんだけどな」
「……」
提督はゆきおの検査結果と、命の期限を告げられたそうだ。そのことはゆきおには伏せていたらしいのだが、どうもゆきおは、自分の死期が近いことに、感づいていたらしい。
「そうなのか?」
「お前がノムラに誘拐されたときがあったろ?」
「うん。ゆきおが摩耶姉ちゃんと助けに来てくれた時だろ?」
「おう」
ゆきおは、『自分が助けに行く』と言って聞かなかったそうだ。提督はもちろん、摩耶姉ちゃんも榛名姉ちゃんも必死にゆきおを止めたそうだが、ゆきおは頑として一歩も退かなかったらしい。
「『涼風はぼくを海に連れ出してくれた! ぼくに勇気をくれた! ぼくと涼風は二人で一人だ!! だから僕が助けるんだ!! 僕が助けなきゃダメなんだッ!!!』ってな。咳き込みながら、俺にそう凄んできやがった」
「……」
「亡くなった自分の母ちゃんと同じ症状で、同じ薬を飲まされてたんだ。そらぁ気
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