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俺の涼風 ぼくと涼風
21. 二人で一人(3)
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 先ほどまで廊下で泣き叫んでいた提督は、騒ぎを聞いて駆けつけた大淀さんや摩耶姉ちゃんたちによって執務室に運ばれ、やがて泣き疲れて眠ってしまった。

「……」

 私はというと、摩耶姉ちゃんに促され、自分の部屋へと戻った。『あたしも一緒にいてやろうか?』と摩耶姉ちゃんに声をかけられたが、それは断った。なぜだか今日は、誰かと一緒にいてはいけないような、そんな気がしたからだ。

 そうして私は自分の部屋に戻り、窓の外をぼんやりと眺めた。今日は満月がとても綺麗で、部屋の明かりを消していても、月明かりのおかげでほんのりと白く、明るい。

 その綺麗な満月を見上げる。表面の模様がくっきりと見えるほどに綺麗な月は、とても優しい明かりで私を照らしてくれている。お日様のように温かくはないが、その明かりはゆきおのように、優しく、柔らかい。

 提督があれほど取り乱す理由。……それはきっと、ゆきおのことだ。

――頑張ったんだぞ!! 必死に頑張ったんだぞ!!

 確か提督は、そんなことを言っていた。ドアの蝶番が合わないことでフラストレーションが溜まり、それでゆきおの事を思い出し、虚しさや悲しさを爆発させたのかもしれない。ドアとゆきおを、重ねて見ていたのかも知れない。

 それが何を意味するのか……私はすでに気付いてる。

 即座に私は首を振る。そんなことはない。ゆきおは今、ただ寝ているだけだ。あれだけがんばったゆきおだ。元々体力もないし、きっといつもより疲れてるんだ。だから中々起きてこないんだ。

 ゆきおは、明日にでもきっと目を覚ます。今日は焼きたてスコーンを置いてきたんだ。私が作った、とても美味しいスコーンを置いてきたんだ。ベリーが入ってて、甘い生地の中にすっぱさが光る、まるで私とゆきおの二人のような、とっても美味しいスコーンを置いてきたんだ。あの匂いをかげば、きっとゆきおだって……。

「ゆきおー……」

 ポツリとゆきおの名を口ずさんだ。いつも私がその名を口ずさめば、ゆきおは返事をしてくれた。あの、三階のゆきおの部屋に行けば、ゆきおはいつも私を笑顔で迎えてくれた。

――早くっ。早く豆大福っ!!

 お菓子を持っていけばもちもちほっぺになって、とても美味しそうにそのお菓子を頬張っていた。私に『自分は男の艦娘なんだ』と秘密を打ち明け、自分で出来ることは意地でも自分だけでやりとげようとする、華奢で細っこい、とても綺麗な茶髪のおかっぱで、まるで女の子のような見た目の男の子。

――僕達の前には、遮るものはなにもないんだ!!

 私が初めて海に連れ出した時は、ものすごく目を輝かせて大はしゃぎしていた。その様は、大目玉を食らうことが分かった上で、それでも摩耶姉ちゃんに対して『もうちょっと海にいてもいい?』と私に言わしめ
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