21. 二人で一人(3)
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と一歩が、踏み出せない。
「……大丈夫」
ゆきおが立ち止まり、私を振り返った。その笑顔はとても優しく、声はとても心地よく、私の耳を優しく、包み込んでくれる。
薄い月明かりに照らされたゆきおは、真っ白だった。
「すぐ戻るから」
「……ホントか?」
「うん。……すぐ、戻るから」
「……」
「だから、先に寝てて」
「……すぐ、戻れよ? 約束だぞ? そしたらあたいと一緒に寝るんだぞ?」
眉をハの字の曲げ、困ったようにほっぺたをぽりぽりとかくゆきおは、やがて私をじっと見て、そして柔らかく微笑み、左目から一筋だけ、涙をスウッと流した。
「……うん。約束する。すぐ戻るから、一緒に寝ようね」
そうして、再び私に真っ白い背を向けたゆきおは、ドアを開いて、私の部屋からいなくなった。
残された私は、ゆきおに言われたとおり、カーディガンを羽織ったまま、ベッドの中に潜り込む。
「……顔が寒い」
身体はカーディガンを羽織っているから、とても暖かい。でも顔が寒くて仕方がない。しばらく考えた後、私はあの日のように、布団を頭から被ることにする。
「ほっ……」
途端に顔が暖かくなる。そして、私の身体を、消毒薬の香りが包み込み始めた。
「……ゆきおの匂いだ」
左手の薬指に触れる。指輪の感触が暖かい。見つめていると、なんだかゆきおの手を感じるような、そんな感じがする。
ゆきおにもらったカーディガンと指輪が、今は少しだけ私から離れているゆきおの代わりに、精一杯ゆきおを感じるように包み込んでくれている。……でもやっぱり、本人がいないと物足りない。
「早く帰ってこないかな……ゆきお」
ポツリとつぶやく。ゆきおの名を口ずさんでも、当たり前だけど、ゆきおの返事は聞こえない。
「……早く、帰ってこいよー……」
次第に瞼が重くなってきた。視界が徐々に狭まり、布団から顔を出しても、月明かりを捉えきれなくなってきている。
「ゆき……お……」
私も起きてゆきおを待っていたかったけれど、私は相当疲れていたらしい。我慢の限界が来たようで、瞼に力をどれだけ込めても、起きることも、持ち上げることも出来なくなった。
――ぼくは、ずっと一緒だよ
不意に、耳元でゆきおの声が聞こえた気がした。
「そっか……ずっと一緒か……へへ……」
体中が暖かい。カーディガンのおかげで、まるでゆきおに抱きしめられて眠っているような、そんな心地いい暖かさに包まれ、私は眠りに落ちた。
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