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俺の涼風 ぼくと涼風
21. 二人で一人(3)
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がはんべその顔を上げた。握っていた拳を広げておたおたわちゃわちゃと上下に振り、私に、自分の不満を必死に伝えようとしている。その様子が、私にはなんだかとてもおかしくて。

「ぷっ……」
「ぷじゃないっ! もっと食べたかった! もっと味わいたかったっ!!」
「そっか?」
「そうだよ! 甘くて酸っぱくて……今まで食べたどんなお菓子よりも、美味しかった!!」

 そして、こんな風に私のスコーンをほめてくれるゆきおの言葉が、とてもうれしくて。

「そっか……」
「そうだよ! 美味しかったよ! もっと食べたかったよっ!!」
「へへ……」

 耳と鼻から水蒸気を出し、ぷんすかと怒りながら、ゆきおは私に不満をぶつけてきた。なるほど。びっくりさせたかったというのは、私のわがままだったのかもしれない。そんなに褒めてくれるのなら、最初に教えてあげてもよかったのかも。私は、自分の思慮の浅さをほんの少しだけ、反省した。嘘だけど。

「わりぃわりぃ。へへ……」

 そんなに気に入ってくれたのなら、これからも時々、ゆきおのためにお菓子を作ろう。そしてその度に、ゆきおに『美味しかった』って言わせて、そしてこうやって褒めてもらおう。

「じゃさ、ゆきお。これからちょくちょくお菓子作ってやるよ!!」
「……ほんと?」

 かわいく憤慨していたゆきおの怒りがひいたようだ。私を再びきょとんと見つめ、あれだけわちゃわちゃと振っていた両手を止める。私はゆきおの右手を取り、自分の両手で包み込んだ。暖かい。とても暖かいゆきおの両手が今、私の手の中にある。

「ほんとほんと! スコーンだけじゃなくて、豆大福だって桜餅だって、マフィンだって、なんだって作ってやる! あたいのゆきおが喜んでくれるなら、何回でも作ってやるよ!」
「……ッ」
「へへ……」

 私をきょとんとみつめるゆきおの両目に、少しずつ涙が溜まってきているのが私には見えた。そのあと、自分の右手を包み込んでいる私の手の上に左手を起き、うつむいて、少しだけ、肩を震わせた。

「……」
「ゆきお?」
「……っぐ」

 布団の上に、雫がぽたりと落ちた。わたしにはそれが、ゆきおの涙にしか見えなかった。

 ぽたぽたといくつか雫を落とした後、ゆきおは再びスッと顔を上げ、

「……涼風」
「ん? どした? ゆきお?」

 まるで布団の中で、私に対して『怒るよ?』と言ってくれたときのように、澄んだ瞳で、まっすぐに、私の瞳を見つめた。その目には、やっばり涙が溜まっていた。

「手、冷たいよ?」
「そか?」
「うん。ちょっとまってて」

 そういい、ゆきおは自分が着ているカーディガンを脱いで、私の肩にふわっとかけてくれた。

「……ほら。これ羽織りなよ。あったかいから」
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