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俺の涼風 ぼくと涼風
21. 二人で一人(3)
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『ぅおあーん』と大きな口を開け、私のスコーンをぱくりと頬張った。そして途端にほっぺたがもっちもちになり、お風呂に入ってる時の油断しきった摩耶姉ちゃんみたいな眼差しになり、私のスコーンを堪能し始めている。

「んー……」

 その様子は、私を助けに来た時のゆきおと同一人物とは思えないほど、緩んで、だらしなく見えた。

「んー……おいし」
「そっか! よかったぜゆきお!!」
「涼風は食べないの?」

 ゆきおに促され、私も雪緒の隣に座り、もうひとつのスコーンを口いっぱいに頬張る。さっぱりした甘さの生地の中にところどころに入っているベリーが甘酸っぱくて、とてもおいしい。とろけそうだ。

「んー……」
「んー……」
「「幸せだー……」」

 二人して、ほっぺたをもっちもちにして幸せを堪能する。やっぱり私たちは二人で一人。美味しいものを食べた時の反応まで一緒だ。それが私には、とてもうれしい。

「ところでさ、ゆきおー。んー……」
「んー? はぐっ……んー……あ、食べちゃった。なにー?」

 よし。種明かしをしてやろう。私は自分の残りのスコーンをすべて食べた後、ぺろりと親指を舐めて、腰に手を当て、胸を張って、ゆきおにスコーンの作者を聞かせることにした。

「このスコーンさ」
「うん」
「あたいが作ったんだ」
「へーそうなん……て、ぇえ!?」

 今までもちもちの顔でスコーンの余韻に浸っていたゆきおの顔が急にシュッとしまり、そして口をパクパクさせ、私を指差し、目を見開いていた。

「涼風が!?」
「そうだよ?」
「これを!?」
「おう」
「一人で!?」
「榛名姉ちゃんに手伝ってもらったけどな!」
「そ、そんな……」

 胸を張って威風堂々な私のすぐ目の前で、あんぐりと口を開けて目を見開いて、驚愕の表情で私を見つめるゆきお。ふっふっふっ。これだ。この顔だ。この驚いた表情が見たかった。ゆきおが倒れてからこっち、毎日お菓子を作っていた甲斐があった。私のがんばりは、無駄にはならなかったんだ。

 私を指差してた手をだらんと下げて、ゆきおがうつむく。

「どうした?」

 小さな肩をゆきおはぷるぷると震わせ、両手で握りこぶしを作って、全身をぷるぷると震わせていた。そして、顔を上げたゆきおの表情は、なんだか演習場で私に『曲がれない』と助けを求めてきたときのような、不思議と泣きそうな表情をしていた。下唇をギュッとかんで、なんだか今にも泣き出しそうな……。

「す、涼風が作ってくれたやつなら!!」
「?」
「もっと早く言ってよっ!!」
「へ? なんで?」
「そしたら、もっと大切に……じっくり、味わって食べたのに!! 美味しいからって、がっつかなかったのにッ!!」

 そういって、ゆきお
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