最終章:夢を追い続けて
第56話「意味を遺したい」
[9/9]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
、なぜ今になって...。」
拳に力を込めながら、千冬はそう呟く。
その言葉には、死を顧みない行動を取った一夏を心配する思いが込められていた。
「........。」
「秋兄?」
「....いや、なんでもない。」
複雑な表情をする秋十にマドカが尋ねるが、秋十は誤魔化すように頭を振る。
現在の秋十の胸の内は、様々な思いが鬩ぎ合っていた。
なぜ、今になって人を助けようと動いたのか。なぜ、死ぬ可能性があると分かっていたのに、そこまで無茶をしたのか。なぜ、なぜ...。
「....秋兄がなのはの家の道場に通い始めてから、私はあいつの世話役になったの。あいつがあんな行動を取ったのは、その時の私の言葉がトドメになったから...だと思うよ。」
「マドカの言葉が...?」
「うん...。」
殺したい程憎いと思った事もあった。いや、ほとんどの時がそうだった。
だが、実際に、しかも誰かを庇って死にかけるのを見ると、やるせない。
そう思いながら、マドカは以前一夏に言い放った事を秋十に話す。
「―――そうか....。」
「秋兄?」
「悪い、少し席を外す。」
複雑な感情が渦巻く思考を何とか抑え、秋十は一度皆から離れる。
そして、誰もいない所で、無意識の内に壁を殴りつけていた。
「っ......!」
確かに、一度自身を貶めた一夏を恨んでいた。
だが、実際に誰かを庇い、傷ついたとなれば...弟として、心配になった。
憎んでいた感情と、心配する感情が鬩ぎ合い、気が気でなかったのだ。
だから、他の皆に迷惑を掛けないようにと、その場から離れた。
「なんで...なんだよ...。なんで、今更...。」
言い表しようがない思いで秋十は呟く。
「....はぁ...。」
溜め息を吐き、気を落ち着ける。
「...とりあえず、早く目を覚ましてもらいたいな。」
例え全てを奪った相手でも、元は家族なのには変わりない。
その事から、人を庇う行動を取った一夏を、秋十はもう憎めなかった。
本当に反省しているのか確かめるためにも、目覚めるのを待つのだった。
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ