暁 〜小説投稿サイト〜
IS〜夢を追い求める者〜
最終章:夢を追い続けて
第56話「意味を遺したい」
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、なぜ今になって...。」

 拳に力を込めながら、千冬はそう呟く。
 その言葉には、死を顧みない行動を取った一夏を心配する思いが込められていた。

「........。」

「秋兄?」

「....いや、なんでもない。」

 複雑な表情をする秋十にマドカが尋ねるが、秋十は誤魔化すように頭を振る。
 現在の秋十の胸の内は、様々な思いが鬩ぎ合っていた。
 なぜ、今になって人を助けようと動いたのか。なぜ、死ぬ可能性があると分かっていたのに、そこまで無茶をしたのか。なぜ、なぜ...。

「....秋兄がなのはの家の道場に通い始めてから、私はあいつの世話役になったの。あいつがあんな行動を取ったのは、その時の私の言葉がトドメになったから...だと思うよ。」

「マドカの言葉が...?」

「うん...。」

 殺したい程憎いと思った事もあった。いや、ほとんどの時がそうだった。
 だが、実際に、しかも誰かを庇って死にかけるのを見ると、やるせない。
 そう思いながら、マドカは以前一夏に言い放った事を秋十に話す。

「―――そうか....。」

「秋兄?」

「悪い、少し席を外す。」

 複雑な感情が渦巻く思考を何とか抑え、秋十は一度皆から離れる。
 そして、誰もいない所で、無意識の内に壁を殴りつけていた。

「っ......!」

 確かに、一度自身を貶めた一夏を恨んでいた。
 だが、実際に誰かを庇い、傷ついたとなれば...弟として、心配になった。
 憎んでいた感情と、心配する感情が鬩ぎ合い、気が気でなかったのだ。
 だから、他の皆に迷惑を掛けないようにと、その場から離れた。

「なんで...なんだよ...。なんで、今更...。」

 言い表しようがない思いで秋十は呟く。

「....はぁ...。」

 溜め息を吐き、気を落ち着ける。

「...とりあえず、早く目を覚ましてもらいたいな。」

 例え全てを奪った相手でも、元は家族なのには変わりない。
 その事から、人を庇う行動を取った一夏を、秋十はもう憎めなかった。
 本当に反省しているのか確かめるためにも、目覚めるのを待つのだった。










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