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俺の涼風 ぼくと涼風
20. ……
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りも、もうちょっと酸っぱい感じ。だけどきっと、ゆきおの口には合うはずだ。

 すべての下準備を終えて、私は今、スコーンを現在進行形で焼いているオーブンの前に、榛名姉ちゃんと一緒にいる。摩耶姉ちゃんは、私がお菓子を作っているときは姿を見せない。いつも私にゆきおの様子を聞いてきて、『そうか』と一言だけつぶやいて、あとはその話題には触れず、私と一緒にいてくれる。だけど今日みたいに、お菓子を作ってる最中は、『あたしは柄じゃねーし』と言って、榛名姉ちゃんに全部任せてるみたいだ。

「……涼風ちゃん」
「んー? どしたー榛名姉ちゃん」
「雪緒くんは、まだ目覚めませんか?」

 スコーンが焼き上がるのを待つ間、私と榛名姉ちゃんは、一緒にじっと、オーブンの中を見つめ続けた。黄金色に輝くオーブンの中では、ゆっくり、じっくりと、スコーンが膨らみ始め、そして焼き色がつき始めている。

「……うん」
「……」
「でもそのうちさ。あくびしながら起きてくるって。だからあたいは、ゆきおがいつ起きてきてもいいように、こうやってお菓子作ってんだ」
「……」
「だってゆきお……あたいが作ったお菓子、まだ食ってないからさ」
「……ですね」

 スコーンの焼き色が目立ち始めた。タイマーを見ると、残り時間はあとわずか。部屋の中に美味しそうな香りが漂い始め、私と榛名姉ちゃんの鼻とお腹をこしょこしょとくすぐりだした。

 チンという小気味いい音が鳴り響き、オーブンが、中のスコーンが焼きあがったことを告げた。

「よーし。んじゃ出すぞー」

 キッチンミトンを両手に装着し、私がオーブンの蓋を勢い良く空ける。そしてそのまま中の天板を取り出した。私達の前に、綺麗に焼けたスコーンが6つ、胸の奥まで届く甘い香りと共に姿を表した。

「んー……いいにおい……」
「うん。いい香りです」
「これだけいいにおいしてたら、ゆきお、起きちゃうかもな!!」

 ……起きろよ。こんなにいいにおいなんだから。

「……ですね。きっと雪緒くん、この香りに包まれたら、お腹すいて起きちゃいますね!」
「うんっ!」

 榛名姉ちゃんも満面の笑みでそう言ってくれてるし、焼きたてをゆきおの部屋に持って行きたい。そう思った私は、笑顔で見送ってくれる榛名姉ちゃんを残し、ゆきおの部屋へと焼きたてのスコーンを二つ届けることにした。残り2つのスコーンは、自分の部屋に置いておく。あとで自分で食べるために。

 スコーンのいいにおいを周囲に漂わせながら、私はお皿に二つの焼きたてスコーンを乗せ、ゆきおの部屋のある宿舎へと足を運ぶ。いつもの入り口の、つい先日出来た自動ドアを通りぬけ、私はいつものように階段を駆け上がり、三階へと急いだ。

 三階に到着したら、迷わずゆきおの部屋へと足を運
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