20. ……
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よく分かる。
私たちを遠目で見ていただけだった榛名姉ちゃんもまた、ノムラの顔を見ている内に、次第に怒りがこみ上げてきたようだ。髪を逆立て、鬼のような形相でカツカツと歩き、ノムラと提督の元へと向かう榛名姉ちゃんの後ろ姿は、本当に恐ろしかった。
『ノムラ提督……ッ!!!』
『エヘ……涼風……へへ……』
『あなたが……みんなをッ!!!』
提督の傍らまでやってきた榛名姉ちゃんは、ノムラを殴り倒そうと震える右手を振り上げたが……
『やめろ榛名ッ!!!』
その途端、提督の怒号がドック内に響いた。さっき私を呼んだ時以上の、ドックの空気をビリビリと振動させるほどの怒気は、私はもちろん、怒り心頭の榛名姉ちゃんの拳をも止めた。
自分の頭の上に振り上げた拳をそのまま止め、ギュッと握り込む榛名姉ちゃんの目には、じわじわと涙が溜まり始めていた。涙目でノムラを睨み続ける榛名姉ちゃんは、肩を激しく上下させ、今にもノムラを殴り殺そうとする自身の体を、提督の命令に従って、必死に、押し留めているように、私には見えた。
『でもみんなが!!! 涼風ちゃんをこの男が……雪緒くんまでこの男が!!!』
『榛名!!! 摩耶の気持ちを汲んでやれ!!! あいつもお前の艤装を装備して、お前の気持ちを汲んでくれたろうが!!!』
『……ッ!!』
『その気持ちを……お前も、汲んでやれ……!!!』
榛名姉ちゃんが、怒りを押し殺して摩耶姉ちゃんを見る。体中傷だらけで、素肌には駆逐ハ級たちに齧られた痕が残り、頭のアンテナも折れた摩耶姉ちゃんが、ドックの片隅で、腰をおろして座っている。ゼェゼェと息が切れている摩耶姉ちゃんは、怒りで震えながら涙目で自分を見つめる榛名姉ちゃんに対し、フッと力なく笑っていた。
『おい榛名ー。あたしがお前の分まで、殴って殴って殴り倒しておいてやったからさ』
『……』
『だからここはこらえてくれ。ここでお前がそいつを殴り殺して解体処分にでもなったら、あたしの頑張りも無駄になる』
『……』
『……頼むよ。榛名』
振り上げた右拳を握りしめ、涙目で再びノムラを睨んだ摩耶姉ちゃんは、やがてゆっくりと拳を下ろし、そして力なくだらりと下げ、俯いて一言『わかりました』とつぶやいた。
『……早く連れて行って下さい。これ以上ここにいたら、全員がこのクソに何をしでかすかわからない。……私を含めて』
『……わかりました。ご協力、感謝します』
提督と憲兵さんたちはそんな会話を交わし、そしてノムラは憲兵さんに連れて行かれた。
『……しゅじゅ……か……』
私が今まで抱き続けた恐怖と葛藤のすべての原因のノムラは、こうして、私たちの前から永遠に姿を消した。その後ろ姿は、あんな男に私の人生を蹂躙されていたのが信じられ
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