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俺の涼風 ぼくと涼風
20. ……
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の人たちがストレッチャーを押してドックから出て行こうとし、提督もそれに付いて行こうとしたその時。

『雪緒!?』
『父さ……?』

 ゆきおの意識が戻ったようだ。白衣を着た人たちが一端ストレッチャーを停め、提督も必死にゆきおの手を握っていた。

『雪緒、痛かったろ……辛かったろ……』
『父……さ……ぼくは……』
『……どうした?』
『涼風を……助けに、行くん……だッ……』

 ドック内に聞こえるゆきおのうわ言が私の耳に届き、その途端に涙が溢れた。意識が朦朧としているゆきおは、記憶が混濁してるらしく、私が助かったことにまた気がついてないらしい。私を助けたのは、自分だというのに。

『涼風ッ!!!』
『は、はいッ!』
『こっちに来てくれ!!!』

 ゆきおの声によく似ているけど、もっと大人な声をした、提督の声が私の名を呼んだ。今まで聞いたことないほどの大きさの声は、私に一切の反論を許さない迫力があった。私は、提督に従ってゆきおの寝るストレッチャーに近付き、ゆきおに私の姿を見せる。

 ストレッチャーの上に寝かされたゆきおは、うっすら目が開き、うなされるように頭を左右に小刻みに振っていた。何かをつかむように力なく持ち上げゆらゆらと揺らしている震えた左手を、私は両手でギュッと掴んだ。

『雪緒!! 涼風は無事だ!!!』
『……?』
『そうだ!! あたいは無事だゆきお!! ゆきおが助けてくれたんだ!!!』
『そっか……そういえ……ば……』
『ありがとう雪緒!! お前のおかげで、涼風は助かった!!! 提督として礼を言う!! ありがとう雪緒!!!』
『てや……ん……でぃ……だって……ぼくと……すずか……ぜ……は……』
『ひぐっ……二人で、一人、だもんな……ゆきお』
『あた、ぼ……う……よぉ……』

 ニッコリと笑い、いつの間にか覚えたらしい私の江戸弁を口ずさんでいたゆきお。提督と白衣の人が『そろそろ……』『お願いします』と会話を交わしたのが聞こえた。その途端、提督が私の両手をゆきおの左手からはがし、その途端、ストレッチャーはガラガラと騒がしい音を立て、入り口をくぐりドックを後にした。入り口ドアが大げさに音を立てて閉じ、ドックに静けさが訪れた。

 提督はそのまま帽子を深くかぶり直し、摩耶姉ちゃんが憲兵さんたちに預けたノムラの元へ、カツカツと歩いて行く。ずぶ濡れのノムラは錯乱しているのか、エヘエヘと気持ち悪い笑みを浮かべ、私たちを眺めていた。

『……』
『へへ……エヘ……しゅじゅ風……しゅじゅ風……』

 提督がノムラの前で立ち止まる。ノムラをジッと見据えた提督は、自分の怒りを必死にこらえるように、右手をギリギリと握りしめていた。震える右手に、ものすごい力がこもっているのが、遠目で見ている私にも、
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