第68話<昨日の敵は今日の艦娘>
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顔を上げると無表情の彼女と目が合った。だが物語のように敵と意思が通い合う……なんてことは無かった。
(やはり目の前の『彼女』は私の知っている艦娘では無いのか)
それは当然のことだが少し残念にも感じた。
(なぜ?)
果して彼女は何者なのか? どちらが真実なのかは不明だ。
そもそも縁も何も無い私たちに敵が親しい態度を取る事自体が不可思議である。謎が多いからこそ『もしかして……』という想いになる。
「司令」
祥高さんが声をかけてきた。振り向くと母親がわざわざ、私たちを出迎えに来てくれたのだ。
母親は言った。
「お前たち、迷っりょらんかと思ってな」
「OH、お母様!」
金剛は迷うことなく母親の手を取って言った。
「写真、取りまショ!」
彼女は、いったんその場から散った艦娘たちを大きな声で呼び集めた。ホントに良く通る声だ。
「青葉、プリーズ!」
「はい、はい」
「お母様はコッチヘ」
私たちが改めて写真を撮ったときには既に、あの深海棲艦親子は姿が無かった。
でも母親は浴衣姿の艦娘たちと写真を撮って意外に嬉しそうだった。
「お父さんも来れば一緒に撮れただになぁ」
母親の言葉に利根が反応する。
「エース殿は来られぬのか?」
『エース』と言う表現に一瞬、考えた母親は直ぐにそれが父親と理解したようだ。
頷いて利根に答える。
「お父さん、こういう人ごみが嫌でね」
「なるほど」
利根はその一言で、父親の人間像を把握したようだった。
写真を撮った後いったん実家へ向かうことになった。
「あれ? あの敵の人じゃない?」
母親は呟いた。見ると確かに人ごみに『彼女』が居た。
小さい深海棲艦は、やたら可愛い。あいつの実子かどうかは不明だが……まったく謎だらけだ。
でもその娘は私たちに気付くと最後まで愛想を振りまいた。
(出来れば、この子とは戦いたくないものだ)
しかし北上が、ちょっと落ち込んでいるように見えた。すると深海棲艦が彼女に近寄り何か話をしていた。
(あれ? 北上が笑顔に変わった)
祥高さんが聞いてくる。
「待ちましょうか?」
「いや、北上も地図データは持っているだろう、私たちは戻ろう」
「はい」
人ごみから離れて立ち話をしている彼女たちを置いて駅前から実家へ向かって歩き始める艦娘たち。
やがて数分後には少し遅れて北上が走って戻って来た。
そんな北上に何か聞こうとした青葉さんだったが、それを止めたのは意外にも利根だ。
彼女は首を振って言った。
「真実でも聞かぬ方が良いこともあるのじゃ」
「あ……」
その言葉に青葉さんも苦笑していた。
私は感心した。
(利根……大人だね。見直したよ)
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