19. 絶対に負けない
[4/12]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
私はなんとか身体を起こし、立ち上がってゆきおの元へ駆ける。なんとかゆきおをボートに上げたくて……ゆきおの手に触れたくて、私はゆきおに背を向け、拘束された手をゆきおに向けて、その手を広げた。
「ゆきお! 手!!」
「ありがと……ゲフッゲフッ……」
ゆきおが私の手を掴んだのを確認し、私は渾身の力でゆきおの身体を引っ張り上げる。だが、後ろ手で掴んだゆきおの手を引っ張り上げるのは容易ではなく、中々うまくゆきおをボートの上に引っ張り上げることが出来ない。
「ちきしょっ……待ってろゆきお……ッ!!」
「ごめ……ゲフッ……すずか……ゲフッ……」
ゆきおの咳込みがひどい。どこか悪いのかも知れない。さっきの砲撃の煙を吸ったのかも知れない。何が理由かはわからないけど、早くボートに上げて休ませなきゃ……。
「ゲフッ……涼風ッ!!」
「!?」
ゆきおに呼ばれ、自分のすぐそばにノムラが立っていることに気付いた。さっき転倒したときに切ったのか、眉間から血が出ている。
「ハァ……ハァ……」
両目をピクピクと痙攣させ、肩で激しく息をするノムラは、一度私をちらっと見た後、今必死にボートに乗り込もうとしているゆきおをぎょろりと睨み、そして私とゆきおの手を掴んで、ゆきおの手を引き剥がし始めた。
「やめろ!! ノムラやめろぉお!!!」
「こいつか……こいつが、俺から涼風を奪った男か……!」
「ゲフッ……ゲフッ……涼風から離れろ……ッ!」
「離せ!! あたいたちから手を離せ!!!」
ノムラの力が予想以上に強い上、私は親指を拘束されている。だからゆきおの手をしっかりと掴むことが出来てない。そのためゆきおの手が少しずつ剥がされているのが分かる。ノムラは、ゆきおの指を、一本ずつ一本ずつ、私の手から引き剥がしている。
ゆきおも必死に抵抗しているのが伝わるが、ゆきおは非力だ。ノムラにされるがままになっているのが分かる。
「クッ……ゲフッ……!」
それでもゆきおも負けてない。左手が剥がされれば右手で、右手を掴まれれば左手で私の手を再度掴み、ノムラに必死に抵抗していた。
「ちきしょっ!! 離せノムラッ……離せよッ!!! ゆきおを離せッ!!!」
「離せクソガキ!! 俺の涼風に触れるな! 涼風に触れていいのは俺だけだ……ッ!!!」
私もノムラの足を蹴って必死に抵抗するが、距離が近いこともあって、ノムラはまったく意に介さない。
「クソがっ……涼風を離せ……クソがッ!!」
私の背後の様子が変わった。ガツッガツッという音が聞こえ始めた。そしてその音が鳴る度、ゆきおの悲鳴が、咳の音に混じって聞こえてくる。
「離せッ!! 死ねッ!!!」
「ゲフッ……んギッ……ゲフゲフっ……!!!」
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ