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俺の涼風 ぼくと涼風
19. 絶対に負けない
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私はなんとか身体を起こし、立ち上がってゆきおの元へ駆ける。なんとかゆきおをボートに上げたくて……ゆきおの手に触れたくて、私はゆきおに背を向け、拘束された手をゆきおに向けて、その手を広げた。

「ゆきお! 手!!」
「ありがと……ゲフッゲフッ……」

 ゆきおが私の手を掴んだのを確認し、私は渾身の力でゆきおの身体を引っ張り上げる。だが、後ろ手で掴んだゆきおの手を引っ張り上げるのは容易ではなく、中々うまくゆきおをボートの上に引っ張り上げることが出来ない。

「ちきしょっ……待ってろゆきお……ッ!!」
「ごめ……ゲフッ……すずか……ゲフッ……」

 ゆきおの咳込みがひどい。どこか悪いのかも知れない。さっきの砲撃の煙を吸ったのかも知れない。何が理由かはわからないけど、早くボートに上げて休ませなきゃ……。

「ゲフッ……涼風ッ!!」
「!?」

 ゆきおに呼ばれ、自分のすぐそばにノムラが立っていることに気付いた。さっき転倒したときに切ったのか、眉間から血が出ている。

「ハァ……ハァ……」

 両目をピクピクと痙攣させ、肩で激しく息をするノムラは、一度私をちらっと見た後、今必死にボートに乗り込もうとしているゆきおをぎょろりと睨み、そして私とゆきおの手を掴んで、ゆきおの手を引き剥がし始めた。

「やめろ!! ノムラやめろぉお!!!」
「こいつか……こいつが、俺から涼風を奪った男か……!」
「ゲフッ……ゲフッ……涼風から離れろ……ッ!」
「離せ!! あたいたちから手を離せ!!!」

 ノムラの力が予想以上に強い上、私は親指を拘束されている。だからゆきおの手をしっかりと掴むことが出来てない。そのためゆきおの手が少しずつ剥がされているのが分かる。ノムラは、ゆきおの指を、一本ずつ一本ずつ、私の手から引き剥がしている。

 ゆきおも必死に抵抗しているのが伝わるが、ゆきおは非力だ。ノムラにされるがままになっているのが分かる。

「クッ……ゲフッ……!」

 それでもゆきおも負けてない。左手が剥がされれば右手で、右手を掴まれれば左手で私の手を再度掴み、ノムラに必死に抵抗していた。

「ちきしょっ!! 離せノムラッ……離せよッ!!! ゆきおを離せッ!!!」
「離せクソガキ!! 俺の涼風に触れるな! 涼風に触れていいのは俺だけだ……ッ!!!」

 私もノムラの足を蹴って必死に抵抗するが、距離が近いこともあって、ノムラはまったく意に介さない。

「クソがっ……涼風を離せ……クソがッ!!」

 私の背後の様子が変わった。ガツッガツッという音が聞こえ始めた。そしてその音が鳴る度、ゆきおの悲鳴が、咳の音に混じって聞こえてくる。

「離せッ!! 死ねッ!!!」
「ゲフッ……んギッ……ゲフゲフっ……!!!」


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