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俺の涼風 ぼくと涼風
18. “絶対に負けない”
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「しばらくの辛抱だからな涼風。ちょっと痛いけど、我慢してくれな」

 ノムラはひとしきり私の身体を撫で回した後、もはや心が何も感じなくなった私の両手を後ろ手に回し、両手の親指を結束バンドで拘束した。かなり頑丈に締め付けられたようで、結束バンドに締め付けられた指の部分がうっ血しているのが、見なくても分かる。

「……」

 そのまま私の身体ではなく、指の結束バンドを引っ張って私を部屋の外へと誘導する。うっ血した指に食い込む結束バンドはとても痛く、私は抵抗が出来ずに、ただの人間のはずのノムラに、ただ、いいように引きずられ続けた。

 誰もいないのを見計らい、ノムラは私をひきずって、暗闇が広がる外へと足を踏み出した。ここは中庭。どの建物からも死角になっていて、寄宿舎からも食堂からも執務室からも、窓越しでは全景を確認出来ないエリアになっている。

『もう限界ッ! アンタもいい加減七面鳥とか言うのやめてよッ!!』
『そんなこと言ってません。最近のブームはウスターです』
『この……濃口醤油……ッ!!』
「!?」

 ノムラが私の身体を背後からギュッと抱きしめ、口を押さえて声を押し殺した。宿舎の廊下の窓から光が漏れる。数人の艦娘が、廊下を歩いていた。

「シッ……人がいる……」
『濃口醤油のくせにムカつくのよッ……!!』
『あなたもいい加減に醤油の偉大さに気付くことね』
「……」
「静かにな……ハァー……涼風……ハァー……いい子だろ……?」

 私の返事はおろか反応すら待たず、ノムラが私の耳元で、気色悪く生ぬるい呼気とともに囁く。

 ……少しだけ、吐き気がした。胃の中の物が少しだけ持ち上がりそうになり、口から出そうになる。耳元で履かれ続けるノムラの呼気が、まるで意志を持った毒ガスであるかのように、私の身体にまとわりつき、そして私を拘束する。

 しばくして、廊下を歩いていた艦娘たちの姿がなくなった。明かりも消え、人影が完全になくなっても、ノムラは私の身体から離れようとしない。私の頭を撫で、私の髪を乱し、匂いを嗅いで、私を貪るのに夢中になっているようだった。

「ハァ……ハァっ……す、涼風……」
「……」
「ちゃんと逃げられたら……二人になったら……ち、ちゃんと、愛してやる……からな……」

 嫌悪感すら抱かない。何も感じない。吐き気すら無くなった。私の意識が、外界に興味を失った。

 ただ、寒い。身体が氷のようにつめたく、そして寒い。ノムラが私を抱き続けているせいで、私の心が冷えていく。カーディガンを羽織っているのに……こんなにあたたかい、ゆきおのカーディガンを羽織っているのに、私の身体が温まらない。氷の中にいるように、寒い。

 艦娘が宿舎の窓から見えなくなったことを改めて確認したノムラは、名残
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