18. “絶対に負けない”
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は、ただ為すがままノムラに身体を支えられ、ノムラが指差す方向を見た。暗闇に紛れたその先に、小島が見えた。ここから見て、小さなクルーザーのような船も停っている。ノムラが言っていた小島がこれか。あれが、私をあの鎮守府から引き離す船か。あれが……私をゆきおから引き離す船か。
不意に、私の鼻にフと、かすかに届く匂いがあった。
「……ゆきお」
私の口が勝手に動き、ゆきおの名前をつぶやいた。その途端、私の両肩がじんわりと温かくなっていく。
かすかな香りがハッキリと強くなった。この香りは消毒薬。ゆきおの部屋で……ゆきおの布団から……ゆきおの身体から漂ってきた、私が大好きな、ゆきおの香り。
「ゆきお……ゆきお……」
「? ゆきお?」
ノムラが私の耳元で何かをつぶやいたが、それが私の耳に届くことはない。なぜなら私の心が今、ゆきおを求め始めたからだ。私の記憶の中のゆきおの声が、私の耳元で、宝石のように輝き始めからだ。
―― 僕と涼風は、ケフッ……二人で一人だから
布団の中での、ゆきおの言葉を思い出した。ノムラに殺された私の心が、ゆきおの香りと言葉によって、少しずつ息を吹き返し始めたことを、私は感じた。
「……いやだよ……ゆきおと……離れたくない……よ……」
私の口が、ゆきおとの別れを拒否した。私の目が涙を流し始め、この状況に……ノムラに抵抗の意志を示した。喉も目に呼応した。勝手にゆきおの名を呼ぶ口と共に、私に声を出す力を取り戻させてくれた。
――出来ないわけないよ。
肩の温かさが、私の全身を温め始めた。ゆきおのカーディガンの温かさが、私に力とぬくもりを取り戻させてくれた。消毒薬の香りが、私の心に勇気をくれた。
「ゆきお……ゆきお……」
「誰だ涼風!! そのゆきおって誰だ!!!」
――ぼくは、そう思ってる
ゆきおの名を呼ぶ度、私の身体に力が戻り始めた。私は振り返り、ノムラを睨む。涙を流してノムラを拒絶する両目で睨み、ゆきおの名を呼ぶ口を大きく開き、息を目一杯吸い込んだ。
「あたいに触るな!!!」
「な……」
「あたいは!!! ……あたいは、ゆきおと名コンビだ!! あたいはゆきおと、二人で一人なんだ!!!」
「なんだ……と……?」
「お前なんかあたいの提督なんかじゃねーやべらぼうめえ!!! あたいは……あたいは、ゆきおのものだ!!!」
私は涙を流しながら、必死に、ノムラを拒絶した。
「だからあたいに触るなッ!!! あたいを触っていいのは、ゆきおだけだ!!!」
「……」
「あたいを抱きしめていいのはゆきおだけなんだッ!!!」
「……」
「だからあたいを鎮守府に戻せ!!! ゆきおの元へ帰せ!!!」
周囲に突然『バチン』という音が鳴り響
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