66部分:第六話 馬超、曹操の命を狙わんとするのことその九
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第六話 馬超、曹操の命を狙わんとするのことその九
「実際どうなんだよ、それはよ」
「それは」
「そうじゃないのか?あいつはずる賢いからな、そうじゃないのか」
「待て、馬超」
夏侯惇の今度の言葉は独り言ではなかった。
「私を疑うのはいい」
「何っ!?」
「だが関羽殿は貴殿の友人だな」
馬超に顔と身体を向けてだ。両手を拳にしてそのうえできっとした顔になってだ。彼女に対して言うのである。最早独り言は言わなかった。
「その友人の言葉を疑うのか」
「何っ、あたしが疑っているというのか」
「そうだ、そうとしか聞こえぬ」
こう返す夏侯惇だった。
「それは許せぬ。檻から出ろ」
「檻をか」
「元より出されることになっていた。だがその前にだ」
そして言う言葉は。
「槍を取れ」
「槍を!?」
「貴殿の槍をだ」
それをだというのだ。
「その槍を取れ、いいな」
「それであんたと闘えっていうのか」
「そうだ、その通りだ」
まさにそうだというのだ。
「わかったな、闘え」
「ああ、まずは手前から血祭りだ」
馬超の目は血走っていた。その目で夏侯惇を見据えての言葉だった。
「曹操の前にな」
「外に出ろ」
夏侯惇の言葉は続く。
「それで教えてやろう」
「待て、夏侯惇殿」
関羽が二人の間に入ろうとする。
「それは幾ら何でも」
「口で言ってわからぬ者もいる」
だが夏侯惇ももう引かなかった。
「ならばこうするしかない」
「ああ、望むところだ」
馬超も完全に頭に血がのぼっている。
「檻から出たらな。やってやる!」
「馬超・・・・・・」
最早関羽の制止は無駄だった。二人は夜の平原に出た。白い満月を背にしてそれぞれ構えたのである。二つの槍の光が月夜の中に輝く。
「来い、馬超」
「あたしの槍に勝てる奴はいないからな」
「それはどうかな」
馬超は身体を右に向けて槍を下に持っている。やや屈んでいる。それに大して馬超は膝を落としたいつもの彼女の構えを取っている。
「私の槍に勝てる者は曹操軍にもいないのだぞ」
「その言葉通りにいくものか!」
行って向かおうとする。しかしだった。
「むっ!?」
「どうした?」
夏侯惇の構えを見てだ。そのうえでの言葉だった。
夏侯惇の構えはだ。澄んでいた。そこには何の淀みもなかった。馬超はその構えを見ながら。母の言葉を思い出したのである。その母のだ。
「武芸は全てを語る。構えは嘘をつかない・・・・・・」
思わずこのことを話していた。そしてだ。
そのうえで向かおうとする。しかしであった。
動けなかった。真実がわかったからだ。そして自分の過ちをだ。
「うう・・・・・・」
「どうしたのだ?来ないのか?」
「母ちゃんは死んだんだな」
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