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俺の涼風 ぼくと涼風
17. 戻る日
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暗で見通しづらい。つい最近まで、この時間でもまだ電気を点けなくても明るいぐらいだったのに、今はもう、電気をつけないと見通せないほど暗い。私は手探りでテーブルの上にマフィンが乗った皿を置き、手を伸ばして、部屋の明かりをつけた。

「涼風……」

 その瞬間、私の身体が凍りついた。

 明かりがついて明るくなった私の部屋の片隅に、いるはずのない……ここにいるはずのない、私が出会ってはいけない男が、見慣れない服装で、じっと静かに、立っていた。

「……やっとだ……やっと会えた……やっと、ここまでこれたんだ……」
「……な、なんで……」
「会えてうれしいよ……涼風……」
「なんで、あんたが……」
「会いに来たんだよ。愛する……涼風に」

 その男が一歩一歩、静かに私に向かって歩いてくる。反射的に身体が後ずさろうとするが、足が言うことを聞かない。

「なんでここに……あんたがいるんだ……」

 私の身体は、問いただすことが精一杯で、それ以上動くことが出来なかった。見慣れないベージュのチノパンに白のトレーナーを着たその男は、私が見覚えのある……夢の中で何度も何度も繰り返し見た歩き方で、私のそばまで歩いてくると、静かに右手を伸ばし、恐怖で震える私の頬にふれ、そして愛おしそうにさすった。

「キレイだ……カワイイよ……素敵だ」
「なんでいるんだよ……あんたがッ……」
「なんでって……」

 ニチャリという音が聞こえた。その男が、ひどく顔を歪ませ、首を左に傾けながら、口角が引き裂かれたのではないかと思うほど釣り上げる。濁りきり、ピクピクと痙攣する眼差しを向け、私の頬をさするその手は、ドライアイスのように冷たい。

「会いに来たんだよ……お前に」
「……ッ!?」
「涼風……俺の、俺だけの……涼風ェェェエエエエ……」

 あったかくて優しいゆきおとは、何もかもが正反対の男……冷たい身体で私の身体を抱きしめ、そして私の身体を冷たく冷たく凍えさせてくるノムラは、私の耳元で、致死の呪詛にも聞こえるおぞましい愛の言葉を、静かに優しく、だがハッキリと禍々しく囁き続けた。

「涼風……寂しかったろう……俺と離れて、つらかったろう……?」
「ヒッ……」
「ずっと一緒だ……これからは、ずっと……ずっと、一緒だからな……」
「……」
「二人でいような。……涼風ぇぇエエエエ」

 逃げたかった。大きな声で悲鳴を上げ。ノムラの手を振り払い、私は、この男の胸元から逃げ出したかった。廊下に駆け出て、摩耶姉ちゃんや榛名姉ちゃんに助けを請いたかった。執務室まで逃げたかった。ゆきおの部屋まで駆けていって、そこで大好きなゆきおが戻ってくるまで、隠れ続けたかった。

 だが、ノムラへの恐怖が、私にそれらを許さなかった。移動を禁じた為にそ
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