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俺の涼風 ぼくと涼風
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「……へ?」
「いつか、涼風ちゃんと一緒にこれを作って食べるんだって……きっと涼風ちゃんは、難しいのは作れないからって……でも一緒に楽しく作りたいから、できるだけ簡単にシンプルに作れるようにって、二人で色々考えたんです」

 私の胸が一瞬、キュッとしまった感じがした。あの金剛さんの笑顔が頭の片隅をかすめ、鼻の奥がツンと痛くなった気がした。

「あの……榛名姉ちゃん……ごめん……」

 懐かしそうにマフィンを見つめる榛名姉ちゃん。私はつい、榛名姉ちゃんの名を呼んだ。ひょっとしたら……私は、榛名姉ちゃんにつらい思いをさせてしまったのかもしれない。

 でも、私の謝罪を聞いた榛名姉ちゃんは、私の方を向いて、キョトンとした不思議そうな顔をした。

「へ? なんでですか?」
「だって……昔のこと、思い出させちゃって……」
「ぁあ、むしろ逆です」

 手に持っていた出来たてのマフィンをテーブルに置き、腰に手を置いて、榛名姉ちゃんは私に対して笑顔を向けてくれた。その顔に、昔を思い出した悲しさや憤りは感じられない。むしろ嬉しそうに微笑んでいる。

「このレシピはもう、涼風ちゃんに教える機会はないと思ってましたから……金剛お姉様に申し訳ないなぁって、常々思ってたんです」
「……」
「……でも、こうやってちゃんと涼風ちゃんとマフィンも作れましたし」
「うん……」
「それに、その理由がね。大好きな男の子のために作るお菓子ですから。金剛お姉様もケラケラ笑って喜んでくれてるでしょうし、榛名も、なんだかうれしくって」

 そう言って、榛名姉ちゃんはニッコリと微笑んでくれた。どうやら思い出したくないレシピだったわけではなく、本当に私に伝えたかったレシピだったようだ。一安心だし、私もうれしい。金剛さんと榛名姉ちゃんが、私のために必死に考えてくれた、思い出のレシピ……私もなんだか、胸がいっぱいになってきた。

「そっか……あたい、つらい思いをさせたんじゃないかと思って……」
「そんなわけないです。やっとこのレシピを一緒に作れて、榛名はとってもうれしいんですから」

 改めて、残り二つのマフィンを見る。知らない内に摩耶姉ちゃんがいくつか食べてしまったらしいマフィンは、だいぶ冷めてきたようで、湯気がおさまっていた。

――ヘーイ涼風ー ボーイフレンドと仲良くやるデスヨー!!

 なんだか、元気で優しい金剛さんの激励が聞こえてくるようだ。いつの間にか鼻の痛みも収まり、私の身体は、久しぶりに金剛さんに触れることが出来た喜びで、胸がぽかぽかと暖かくなっていた。

「榛名も、一個いただきますね」
「うんっ!」

 榛名姉ちゃんが、さっき自分が持っていたマフィンを再び手に取り、紙のカップをペリペリと器用に向いていく。ある程度紙を
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