暁 〜小説投稿サイト〜
俺の涼風 ぼくと涼風
16. ちょっと行ってきます
[7/13]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
るゆきおを見ながら考えた。

 ところで、今日はゆきおが提督と共に、鎮守府を離れる日だ。

「なー雪緒」
「ん? 摩耶さん何?」
「お前さ。今日から提督と鎮守府から離れるんだよな」
「10時過ぎには出発します。けふっ……」
「どこ行くんだよ?」

 きゅうりの浅漬にバリバリとかじりつきながら、摩耶姉ちゃんがゆきおにといかけ、ゆきおがちょっと戸惑っているように見える。摩耶姉ちゃんも軽い気持ちで質問したはずなのだが、ゆきおの顔が妙に優れない。

 実は私も気になっていた。ゆきお自身がその話に触れないので、私もその話には触れないようにしているのだが……やはりパートナーがどこに行くかは知りたい。

 ……もっとも、それをゆきおが話してくれるのなら……というのが前提だけど。

「えっとね。東京」
「へー」
「ちょっと用事があるんです」
「ほーん……提督もあんまその件は話してくれなくてさー。大本営に行くとは言ってたけど……」

 そこまで言うと摩耶姉ちゃんは、再び急須を取って自分の湯呑にお茶を注ぎ、それをすすって顔をしかめていた。口がむにむにしているから、私のお茶が苦いのかも知れない。

「大淀さんも詳しくは知らないらしいんですよね」

 榛名姉ちゃんが空になった急須を取り、蓋を開けてポットからお湯を継ぎ足していた。これで多少はお茶の苦味も和らいだかも知れない。私には少々物足りないけれど。

「何か東京で用事でもあるんですか?」
「そうらしいです。けふっ……」
「雪緒くんもですか?」
「ぼくは親族が東京にいるんで。ぼくの顔を見せたいそうです」
「へー……」

 ゆきおは榛名姉ちゃんの質問に笑顔で答えた後、私の隣で顔をしかめてお茶をすすっていた。私は、そんなゆきおの横顔をこっそり眺める。あの粉薬を飲んでる時のようなしかめっ面だが、それでも律儀に飲んでくれてるってことは、少なくとも飲めないレベルの苦さではないようだ。

 そういえば。少し前まで……それこそ、私が眠れなくて苦しんでいる間、ゆきおも満足に睡眠が取れてなかったらしく、目の下にクマを作っていた。それが、最近はクマもなくなり、以前のキレイな顔に戻っている。ここ数日は私と一緒にぐっすり眠っているのかもしれないが、それ以前に、ゆきおが睡眠不足に陥っていた理由は何だったんだろうか。フとそんなことを考えた。

「なーゆきおー……」
「うん?」
「……なんでもねーやっ」
「??」

 そのことを聞こうとして、やめる。なんだか、聞いてはいけないような予感がした。

 その後『出かける準備しなきゃ……』と言って、ゆきおは一人で自分の部屋に戻っていった。その後ろ姿は、いつものようにとても華奢で細っこくて……それで、とても頼りがいのある背中だ。

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ