巻ノ百 後藤又兵衛その十一
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「無駄死にはせず、か」
「最後の最後まで戦いませぬか」
「貴殿は清海殿達十人の家臣と死ぬ時と場所は同じと誓っておられるな」
「友、そして兄弟達として」
「桃園の誓いの様に」
「そうしております」
「わしは死ぬべき時に死ぬつもりじゃが」
それでもとだ、後藤は言った。
「しかしな」
「それでもですな」
「うむ、わしも無駄死にはせぬ様にしよう」
「それは何よりです」
「そして真田殿と共に戦えば」
そうした時になればというのだ。
「とことんまで戦うか」
「そうして頂けますか」
「そうしたくなった、真田殿と最後までな」
「では」
「うむ、義兄弟にはならぬが」
それでもというのだ。
「友になってよいか」
「是非」
幸村は後藤に微笑んで答えた。
「そうして頂ければ」
「ではな」
こうした話をしてだった、そのうえで。
彼等は堺のある居酒屋に入った、そこで堺の前にある海で採れた新鮮な魚を刺身にしてもらいそれを肴にしてだった。
酒を飲みはじめた、その酒の席で後藤は言った。
「酒は大好きでのう」
「こうしてですか」
「よく飲んでおる」
そうしているというのだ。
「こうしてな」
「暇があればですな」
「そうじゃ、酒はよい」
笑いながらだ、後藤は言った。
「飲むと気分がよくなる」
「ですな、非常に」
「それに憂いも消える」
「李白の様に」
幸村は飲みつつこの詩人の名前も出した。
「左様ですな」
「そうじゃな、人は生きておるとな」
「どうしてもですな」
「憂いも出来る」
そうなってしまうというのだ。
「それは避けられぬ」
「因果なもので」
「いつも明るくはいられぬ」
後藤は飲みつつ実際にその顔に憂いも見せていた。
「残念ながらな」
「憂いは人の友の一つです」
「いいか悪いかは別にしてな」
「ですから」
「わしは自分では明るい者だと思っておる」
後藤は自分自身のことも話した。
「しかしな」
「それでもですな」
「うむ、時としてじゃ」
「憂いを持たれますか」
「色々と思ってしまう」
そうだというのだ。
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