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SAO−銀ノ月−
心中
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がると、脇目も降らずに目的の場所を探していく。

 手がかりがあるとすれば、リビングや生活スペースではない。彼女が暮らしていた自室だと目をつけていて、広くはない廊下を進んでいけばほどなく見つかった。扉に『愛の部屋』と手作りの表札が掲示されたその一室は、まるで子供時に作ったものをそのままにしているかのようで、隣の部屋には同じものが掲げられていた。

『おにいちゃんの部屋』

 ……どうやら隣は《SAO》で死んだという兄の部屋らしかったが、ひとまずはこちらが先だとリーベの部屋の扉を開ける。換気されていない部屋特有の湿った空気とホコリの匂いとともに、部屋の中身が俺の瞳に飛び込んでくると――反射的に、その光景に吐き気を催してしまう。

「っ……」

 その部屋にあったものは、一面《SAO》だった。事件の後に回収されたはずの浮遊城のポスターは、天井も壁も構わずにところ狭しと貼られていて、床には文献や雑誌が足の踏み場もないほどに転がっている。それは事件が発生する前の物や、事件が発生した後のデスゲームについて記された物、果てにはVRゲームを構成するフルダイブに関しての学術書まで、《SAO》に関わることを全て集めたかのような、直視したくない 狂気的な空間だった。部屋の主が不在になった為の荒廃が、その印象をさらに上書きしていた。

「あれは……」

 一刻も早くこの空間から出たいと思ってしまったが、それではこの家に来ていた意味がない。何か手がかりになるものがないかと、部屋の中を詳しく見てみれば、すぐに不自然なスペースの空いた机が目についた。綺麗にその場所が空いているにもかかわらず、雑誌が転がっているわけでもないその机に何とか近づいてみれば、その疑問はすぐに解決された。

 その近くには電子機器が転がっており、どうやら本格的なパソコンが置かれていた机らしかったが、本体はどこにも見当たらない。持ち出したのはリーベ本人か、それとも菊岡さんたちかは知らないが、とにかく情報が満載されたパソコンを置いていくような真似をするわけもない。

 ――代わりに、新たな疑問が俺に提示されていた。

「…………」

 確かに以前までは机の上にパソコンが置かれていた形跡があるが、今は新たに日記帳のような物が置かれていた。それだけ聞けば別に不思議ではないが、その日記帳は一切のホコリが付着していなかった……つまり、つい最近になって、誰かの手によってこの机に置かれたことになる。

 ……いや、このタイミングで誰か、などと不明瞭な言い方をする必要などない。まるで監視されているかのような不気味さを覚えながらも、何か目的があるなら乗ってやるとばかりに、その日記帳を開いていくと――

 ――そこに記されていたのは、彼女の半生だった。

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