心中
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「……もしもし」
そうして俺はというと、電車をいくつか乗り継いで見知らぬ土地を訪れていた。最近、ようやく新しい物に買い換えた携帯端末を握り締め、機械的なコール音の後に聞き慣れた声が聞こえてきた。とはいえ電話のシステム上、聞き慣れた本人の声ではないというのは、もはやトリビアにすらならない話だが。
『もしもし、一条くん。現地には着いたかい?』
「はい、菊岡さん」
アバターの名前が名前のために、もはや呼ばれることも少なくなった一条という名字に、一瞬だけ面食らいつつも目の前にそびえ立つマンションを見上げる。よくある集合住宅といった趣の建物であり……以前、リーベが暮らしていた一室があるという。
現状、彼女を止める手段は分からない。ならばと菊岡さんに連絡を取り、何かの手がかりがないかと、彼女の住居を訪ねる運びとなったのだ。
『しかし、すまないね。本当なら、後始末はこっちの仕事のはずなんだが……』
「いや、また終わったら頼みます。それで……?」
『ああ。管理の方には話を通してある。我々も一度は調べたから、目新しいものはないだろうけどね……まあいい。思う存分頼むよ』
「ありがとうございます」
もはや《死銃事件》とは違う仕事の担当になっていたらしいが、幸いなごとに菊岡さんもこちらのわがままを二つ返事で聞いてくれて。必要以上に荒らさないことを条件に、リーベが暮らしていた家に手がかりを探すことを許してくれた。さらに止めた後の自分ではどうしようもないことも頼んで、お礼とともに通話を打ち切ると、マンションの中に入っていく。
「すいません……ええと、一条さんですか?」
「はい。今日はすいませんがよろしくお願いします」
ほどなくオートロックの玄関に行く手を阻まれるものの、すぐに横から声をかけられる。初老の物腰の柔らかそうな男性で、菊岡さんが話を通してくれているという管理人の方だろうと、ペコリと一礼する。すると行く手を阻んでいた自動ドアが開き、管理人の方に誘導されながらマンションの中に足を踏み入れていく。
「そういえば……まだ部屋が残っているということは、まだリー……彼女から家賃は支払われているんですか?」
「いいえ。ですが、まあ……遠くで働いてる親戚の方から入金はありまして。あの子は行方知らずですよ」
二人でエレベーターを待ちながら、ふと気になっていたことを管理人さんに聞いてみれば、あまり言いたくはなさそうに口を開く。それも当然だ……要するに、その家賃を払っている親戚とやらは、リーベが行方不明になっていることにも気づいていない、ということなのだから。彼女に興味がないのか知らないが、そこまで管理人さんに聞くのは筋違いというものだろう。
ほどなくエレベーターは到着し、
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