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首に噛まれ
第五章
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「死んではいてもです」
「それだけにだってんだな」
「ご自身で倒してもいないお命を勝手に手にして手柄にすることは」
「ああ、悪いことだってわかっていたさ」
 雪吉自身もそれはわかっていたのだ。だが、だったのだ。
「それでもな」
「それでもですか」
「手柄になるからな。やってたんだ」
 そしてその時にだ。噛まれたというのだ。
「そうしたらこうなっちまった。これも因果だろうな」
「悪いことをすれば必ず報いがあるのが世の中ですから」
「だからだな。それじゃあな」
 それならばだとだ。雪吉は観念した声で述べた。
「わしは報いを受けてこれから死ぬんだな」
「お言葉ですが最早」
 坊主は医者ではないがそれでもわかった。最早雪吉は助からない、身体全体が腐りあちこちから膿が吹き出ていて骨さえ見えている。鼻も耳も腐り落ちている。
 その有様では死ぬのは近い。だから言うのだった。
「そうなります」
「そうだよな。これが悪い奴の果てだな」
 観念した声でだ。雪吉は言った。
「それじゃあ死ぬか。悪い奴らしく無残にな」
 雪吉は坊主から水を飲ませてもらいそのうえでこう言った。最後に来てくれて水まで飲ませてくれた坊主に礼を述べた。それから三日後にだった。
 彼は腐り落ちる様にして死んだ。骸は腐る中何とか棺桶に入れられて埋められた。腐った嫌な臭いは葬式の間もずっと漂っていた。
 雪吉が死んでからだ。与平と太平は出陣の前の日に足軽達が集っている岐阜城の中の詰所においてだ。酒を飲みながら雪吉の話をした。
 その中でだ。与平は言ったのである。
「やっぱりな。あいつがああなったのはな」
「ああ、あれだな」
「首に噛まれたせいだな」
「そこから腐ってらしいな」
「みたいだな。あいつは死ぬちょっと前に言ってたらしいな」
 こうだ。彼が坊主に話したそのことを太平に述べたのである。
「まあ確かに悪い奴だったな」
「嫌な奴だったな」
「報いを受けたんだよ」
 まずは冷たくだ。与平はこう言った。
 そしてその濁った酒を飲み干し魚を食いながらだ。こうも言ったのである。
「それでもな。酷い最期だよな」
「ああ、全くだな」
「悪いことをしたらそうなるっていうかな」
「首は人の命だからな」
 今度は太平が言った。
「ああなるっていうかな」
「そういうことか」
「そうじゃないのか?まあ確かにわしも酷い最期だとは思うがな」
 因果応報、それに過ぎないとだ。太平は与平に述べたのである。
「人の命、ましてやああして勝手に自分の手柄にするようなことをしたからな」
「ああして腐って死んだっていうんだな」
「そういうことだろ。わし等もな」

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