14. 二人だけの夜(1)
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を配りつつ、私はゆきおの部屋まで足音を殺して歩いて行く。ドアの向こう側は明るい。隙間からこぼれる優しいクリーム色の光が、それを物語っている。
私は、凍える右手で拳を作り、やっとのことでドアを弱々しくノックした。
『はーい?』
ゆきおの声が聞こえた途端、安堵で崩れ落ちそうになる。がくがくと震える身体を持ち直し、私は再度ドアをノックして、中のゆきおに声をかけた。
「……ゆきお」
『すずかぜ!?』
ゆきおが、ガタガタという音と共に、私の名を呼ぶ。突然の来客に慌てているようだ。何かを大急ぎで片付けているような音だと思える程度に、私の頭は平常心を取り戻しつつあった。
『ケフッ……ど、どうしたの!?』
大慌てしているようにも感じるゆきおの声は、さっきまで恐怖に囚われていた私の心に、平穏をもたらしつつあるようだった。ゆきおの一言一言が、私の胸を沈めてくれる。すり減らされた私の心を、ゆっくりと優しく包み込んでくれる。暖かく心地いい空気が、私の周囲に広がり始めたことを感じた。
「ごめんゆきお……あけて……」
「う、うん……」
ドアの向こうから、パタパタというスリッパの音が聞こえ、そして次の瞬間、ドアが開いた。
開いたドアの向こうで私を出迎えてくれたもの……それは、真っ白い上下の室内着の上からクリーム色のカーディガンを羽織った、私が大好きな、優しいゆきおだった。
「すずかぜ……」
「ゆきお……部屋に入れて」
『どうぞ』というゆきおの返事を待たず、私はゆきおの部屋に入った。
「……ふぁ」
途端に、身体がぽかぽかと温まり始めた。さっきまであんなにひどかった身体の震えがピタリと収まり、むき出しの私の両肩にぽかぽかとした心地よさを感じ始めた。ノムラによって傷つけられた私の身体と心は、今、ゆきおによってゆっくりと癒やされ始めたことを、私は実感した。
私はベッドのそばのソファに、静かに腰掛ける。ふわっと柔らかいソファは私の身体を包み込み、そして優しく受け止めてくれた。
「……どうしたの?」
ゆきおが私の様子を伺い、両膝をついて目の高さを合わせてくれる。そして私の両手を取り、優しくさすってくれ、あたためようとしてくれた。
「どうしたの……寒かったでしょ……」
「……うん」
「手がこんなにつめたい……ちょっと待って」
私の手を離し、ゆきおがカーディガンを脱いで、私に羽織らせてくれた。ゆきおのカーディガンは、私を優しくふわりと抱きしめてくれ、そしてノムラの恐怖に冷えきった私の身体を、じんわりと温めてくれた。
「ゆきお……」
「ん?」
ゆきおの名を呼んだ。『ん?』と優しく相槌を打つゆきおの声がとても耳に心地よく、私の心にじわりと暖かい。
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