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俺の涼風 ぼくと涼風
14. 二人だけの夜(1)
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だて、神経を研ぎ澄ませ、そしてすり減らす。

 曲がり角では、死角からノムラが姿を見せそうで……まっすぐなところでは、奥の暗闇に紛れてノムラがニチャリと笑ってそうで……提督には大丈夫だと言ったが、一人で廊下を歩くという行為そのものが、今の私には恐怖以外の何者でもなかった。

 恐怖に苛まれながらやっとのことで自室に戻り、急いでドアを閉じて、カギをかける。部屋の明かりをつけ、室内に誰もいないことを確認し、やっと安堵のため息がこぼれた。

「ふぅ……」

 途端に私の身体に、疲労感がドッと押し寄せる。これは身体の疲労ではない。神経を必要以上に研ぎ澄ませ、すりへらし過敏になってしまった、私の心の疲労だ。

 ドアの向こうから、ギシッという、誰かの足音が聞こえた。心臓が口から飛び出てきそうなほどの衝撃が私の全身を駆け巡り、私は慌ててドアを振り返る。

「……!?」

 私はジッと動かず、ドアの向こうを睨みつけた。緊張と恐怖の中、数十分とも数時間とも思えるほどの長い数秒のあと……

『……ったく……濃口醤油のくせに……』

 ドアの向こうから聞こえてきたのは、いつかの空母のお姉さんの声。ノムラではないその声に、全身から緊張が抜け、安堵のため息をこぼした。緊張をといた身体からは必要以上に力が抜け、私の身体はガクガクと震え始める。

「……ッ!!」

 腕に力が入らない。寒い。必死で両の二の腕をさするが、私の身体を襲う寒さが取れない。足から力が抜け、私はそのままガクンと崩れ落ち、両膝をついた。

「ちくしょ……ちくしょ……ッ!」

 寒い。冷たい。誰か私を温めて欲しい。あの男に抱かれ、冷たく冷やされた私の身体を、誰か温めて。

「ゆきおぉ……寒いよぉ……」

 ポツリと口をついて出た。私は今、誰よりも、ゆきおに会いたかった。

 しかし。その道のりにノムラが隠れているんじゃないかと思うと、怖くて怖くて、ゆきおの部屋まで行くことができなかった。



 その日からしばらくの間、私は眠ることが出来なくなった。どれだけ身体が疲れようと……どれだけ睡魔に襲われようと……ノムラへの恐怖によって、私の身体は睡眠を禁じられてしまったかのように、眠ることが出来なくなった。

 ゆきおに出会って久しく忘れていた感覚が、再び私の身体を蝕むようになった。寝ようとする度……誰かと話をする度……その声は、私の耳にべたりとへばりつく。

――涼風……

 その声が、何度でも私の頭の中で鳴り響き、心臓を縛る。聞こえた途端、私の胸は一拍だけの大きな鼓動を響かせ、そして次の瞬間、私の全身から力を吸い取り、熱を奪い去っていった。

 今日も私は、一睡も眠ることが出来ず、朝を迎えた。重い身体を引きずり、朝ご飯を食べるために
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