第四章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「その首に噛まれたらしいぞ」
「首にか」
「うむ、そうらしい」
このことをだ。顔を顰めさせながら与平に話したのである。
「噂じゃがな」
「そうか。首にか」
「それでああなったらしい」
このことをだ。与平に話した。
「もっとも噛まれただけしか聞いておらんがな、わしは」
「人に噛まれると腫れるのか」
与平は首を捻って述べた。
「蝮でもあるまいし」
「そんなことはないと思うがな」
「そうじゃな。しかし噛まれたのは確かじゃな」
「らしいのう」
とはいっても太平が聞いたのは噛まれたことだけだ。それで腫れたのではないかというのは彼の予想だ。それも与平に話したのである。
「まあ腫れたのはわしがそうではないかと思うだけじゃがな」
「しかし実際にああなったおるな」
「うむ」
腫れていること自体は間違いがなかった。そのことは。
「奇怪な腫れ方じゃな」
「全くじゃな」
「あれはどうなるのじゃ」
雪吉のその腫れを思いながらだ。太平はまた言う。
「指から腕全体に及んでおるが」
「わからぬ。しかし痛みはないようじゃが」
「痛みはないとはいってもな」
「うむ、あれはどう考えてもおかしい」
「全くじゃな」
彼等は首を傾げさせながら話す。とにかく雪吉のその奇妙な腫れは目立った。それがだ。
右腕だけでなく次第に身体にも及びどす黒くなっていく。そして。
その腫れが全身に及びだ。彼は動けなくなった。その奥からだ。
腐りはじめていた。その腐りが出て来てだった。
膿が出て腐った臭いすら出していた。その膿と臭いに女は逃げ出した。
全身が腐る中でだ。彼は言うのだった。
「水、水・・・・・・」
見舞いに来た坊主への言葉だ。
「水をくれ」
「水ですか」
「苦しいんだよ」
腐る中でだ。喘いでいた。
「本当にな。だからな」
「お水をですか」
「喉が渇いて仕方がないんだ」
こうも言ったのだった。
「だからくれ。水を」
「お水の他には」
「いらん、それだけでいい」
まさにだ。水だけでだというのだ。
「もうそれだけしか受け付けないからな」
「大変ですね。では」
「わからねえ。どうしてなんだ」
息も絶え絶えの様子でだ。雪吉は布団の中で言った。顔までどす黒くなり腐っていた。それはまるで花柳病の様であった。死に至るその病の。
「わしがどうしてそうなるんだ」
「女ではないですね」
「あいつは何もなっちゃいねえ」
一所に住んでいてもだ。うつってもいないというのだ。
「わしだけだ。ただ首に噛まれただけだってのに」
「首ですか」
「勝手に取った首に噛まれてな。それ
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ