第三章
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首を手にした雪吉の右の人差し指を横から噛んできたのだ。噛まれた雪吉は眉を顰めさせて言った。
「何じゃこいつまだ生きておったのか」
「・・・・・・・・・」
返事はなかった。首は全く喋らない。
だがその目は爛々と光り雪吉を怒った目で見ている。しかし首は首だ。
雪吉はすぐに完全に死ぬと思い気を取り直して平然として首を持って本陣に向かった。今回も原田にいぶかしまれたがしれっとしてその首で手柄を得た。
しかしだった。それから二日後だ。岐阜に帰る途中の道中で彼は朝起きて自分の指を見て言うのだった。
「?何じゃこれは」
「おい、どうしたんじゃ」
「何があったのじゃ」
同僚の者達が声をあげた彼に問い返す。
「寝小便でもしたか」
「それなら褌でも乾かしておけ」
「違うわ。指がじゃ」
その指を同僚達に見せながらだ。彼は言うのである。
見れば指は赤く腫れている。それを見せて言うのだ。
「こうなっておるのじゃ」
「蚊にでも刺されたのではないのか?」
「それとも虻か?」
「若しくは蜂じゃろ」
「ううむ、何時の間に刺されたのじゃ」
その赤い腫れ方は確かにそうしたものだった。虫に刺されたものだった。
それを見ながらだ。彼は言ったのである。
「やれやれじゃな」
「それなら放っておけ。そのうち治るわ」
「それ位のことで騒ぐな」
「全く朝から騒々しい」
「迷惑なことじゃ」
同僚達も雪吉の姑息さについては知っている。それでだ。
彼に対して嫌悪を見せそのうえで放っておいた。だが雪吉はそんなことはどうにも思わずにだ。
数日そのままにしていた。するとだ。
指全体が赤くなった。だが痛くはない。岐阜に戻ったがそれでも治らなかった。
それを見てだ。彼は共に住んでいる女、実はすりをしている手癖の悪い女に言うのだった。
「これは何だと思う」
「虫じゃないかい?」
女もこう言うのだった。
「虻か蜂だろ」
「痛くはないがのう」
「痛くないのなら別にいいだろ」
「他の奴もそう言うわ。それならか」
「ああ、気にしなくてもいいよ」
こう雪吉に言ったのである。
「放っておいたらそのうち治るよ」
「そうだな。それじゃあな」
雪吉は女の言葉に頷いた。そうしてだった。
彼はまた放っておいた。指の腫れを。そうして数日は槍の訓練、足軽としてのそれ等を受けながら過ごしていた。すると今度は。
手首全体が腫れそれが徐々に大きくなりだ。遂には。
右手全体が腫れしかもだ。それが黒くなってきた。彼のその手を見てだ。
与平と太平はだ。顔を顰めさせて話した。
「あれは何だと思う」
「あの手じゃな」
「うむ
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