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俺の涼風 ぼくと涼風
13. 久しぶりの外出(2)
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見つけた

 私の耳に今、確実に届いた声があった。途端に、私の背筋に氷が流し込まれたかのような、冷たい感覚が走った。

「!?」

 慌てて振り向き、周囲を見回す。背後を睨みつけ、右を伺い、左を警戒した。

 忘れるはずがない。あの声は……

――俺だけの……涼風……

 心臓はバクバクと必要以上に力強い鼓動をしているのに、血の気が引いていく感触が私の全身を駆け巡る。さっきまであんなに楽しかったデートが終わりを告げ、私の周囲の空間が真っ黒に見えてきた。

「……ッ!!!」

 空が青さを失い、あれだけ賑やかだった雑貨屋さんが輝きを失った。ガヤガヤという音が私の心臓の鼓動にかき消され、私の周囲から音が消えた。

「なんで……なんで……」

 私には分かる……あの男がいる。

 再び周囲を見回す。しかし周囲にたくさんの人がいても、あの男の姿はない。

「おまたせー……?」

 手にふたつ目の紙袋を抱えたゆきおが戻ってきたが、私の顔を見た途端、その顔色が変わった。

「……どうかしたの?」

 ゆきおの真剣な表情から、とても優しい声が放たれた。

「……ゆ、ゆき……」
「何かあったの?」

 聞く人すべてを安心させ包み込む、ゆきおの優しい声は今、あの男の恐怖ですくむ私の心を、優しく、そして温かく包み込んでくれた。私の手を取ったゆきおは、そのまま力強く、温めるように握ってくれる。ゆきおの暖かいぬくもりが、あの男の冷たさで身動きが取れなくなっていた私の身体を、少しずつ温めてくれる。

 だけど。

「手……こんなに冷たい……」
「……」
「ごめんね……待たせてごめんね……」

 私の手が再び温かくなることはなく、むしろ気温よりも冷たくなっていく気がした。ゆきおは私の手をさすり、必死に私の手を温めようとしてくれている。『ごめんね』と何度もつぶやき、暖かい手で私の両手を包み込んで、なんとか私の手を温めようと頑張ってくれたけど。

「ち、違うんだゆきお……」
「ごめんね……寒かったよね……今温めるからね……ごめんね……」

 ゆきおが涙目で、どれだけ私の手を温めてくれても、私の全身に再びまとわりついてしまった、あの男への恐怖を拭い去ることは出来なかった。

 あの男……ノムラが刑務所を脱走したことを知らされたのは、私とゆきおが鎮守府に戻ってからの事だった。?


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