13. 久しぶりの外出(2)
[7/7]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
見つけた
私の耳に今、確実に届いた声があった。途端に、私の背筋に氷が流し込まれたかのような、冷たい感覚が走った。
「!?」
慌てて振り向き、周囲を見回す。背後を睨みつけ、右を伺い、左を警戒した。
忘れるはずがない。あの声は……
――俺だけの……涼風……
心臓はバクバクと必要以上に力強い鼓動をしているのに、血の気が引いていく感触が私の全身を駆け巡る。さっきまであんなに楽しかったデートが終わりを告げ、私の周囲の空間が真っ黒に見えてきた。
「……ッ!!!」
空が青さを失い、あれだけ賑やかだった雑貨屋さんが輝きを失った。ガヤガヤという音が私の心臓の鼓動にかき消され、私の周囲から音が消えた。
「なんで……なんで……」
私には分かる……あの男がいる。
再び周囲を見回す。しかし周囲にたくさんの人がいても、あの男の姿はない。
「おまたせー……?」
手にふたつ目の紙袋を抱えたゆきおが戻ってきたが、私の顔を見た途端、その顔色が変わった。
「……どうかしたの?」
ゆきおの真剣な表情から、とても優しい声が放たれた。
「……ゆ、ゆき……」
「何かあったの?」
聞く人すべてを安心させ包み込む、ゆきおの優しい声は今、あの男の恐怖ですくむ私の心を、優しく、そして温かく包み込んでくれた。私の手を取ったゆきおは、そのまま力強く、温めるように握ってくれる。ゆきおの暖かいぬくもりが、あの男の冷たさで身動きが取れなくなっていた私の身体を、少しずつ温めてくれる。
だけど。
「手……こんなに冷たい……」
「……」
「ごめんね……待たせてごめんね……」
私の手が再び温かくなることはなく、むしろ気温よりも冷たくなっていく気がした。ゆきおは私の手をさすり、必死に私の手を温めようとしてくれている。『ごめんね』と何度もつぶやき、暖かい手で私の両手を包み込んで、なんとか私の手を温めようと頑張ってくれたけど。
「ち、違うんだゆきお……」
「ごめんね……寒かったよね……今温めるからね……ごめんね……」
ゆきおが涙目で、どれだけ私の手を温めてくれても、私の全身に再びまとわりついてしまった、あの男への恐怖を拭い去ることは出来なかった。
あの男……ノムラが刑務所を脱走したことを知らされたのは、私とゆきおが鎮守府に戻ってからの事だった。?
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ