暁 〜小説投稿サイト〜
魔界転生~リターン・オブ・ゲヘナ~
02 異端十字
[4/4]

[8]前話 [9] 最初
の話ですか?」
 窓の外、車が行き来する静かな潮騒がきこえる。
いつもとは違う陵角が切り出した話、いつもと同じ日常を失う始まりの夜は何も変わらない普遍な日々を匂わせながらも深い闇夜を連れてきていた。
「失礼します……会長」
 自分を見る双眸に恐れを感じた柳は、絡みつく糸を払うように道場から飛び出していた。
薄みの悪い説法をかます陵角から少しでも早く離れたいという思いは素直に体を動かし、汗を拭う間のないまま大手町の光の中に逃げていた。



「チリンチリン、鈴の音はいいですねぇ」
 手元に持った風鈴。
目深にかぶったキャスケット、ジーパンにTシャツというラフな姿の彼は目の前に転がる死体に語りかけていた。
廃工場の屋根は抜け、真円の月を移す血だまりは赤黒く揺れる。
涼やかな目と色の白い肌、目の中に異端十字を写す美形の彼は、自らの悔恨に溺れ死んだ肢体に優しく話しかける。
「思い残した事に従って目を覚ませ、魔界に生まれ変わる事で君の願いを叶えられるよ」
 転がった死体は自ら首を掻き切った男。
見開いた目に浮かんだ涙は、血と汚泥にまみれ純度はなくしている。
濁り廃液にまみれた顔は語りかけられる言葉に呼応するように揺れ始めていた。
 死の床を囲うライン、彼が吐き出した血によって真紅の魔法陣は完成し、幾重もの反魂が浮かび上がり術式の制度を高める輝きが見える。
 ボーリングの玉を左右に転がすように、泥をすすり血を塗る顔に連動しうつ伏せに倒れた体の背骨が隆起する。
 鈴の音が奏でる優しくも甘い音を縫うように、跳ね上がり裂ける体から飛び出す男。
自らの体を殻として壊し、真新しくも血を浴びた新しい体の彼は月に向かい笑みを見せていた。
「おめでとう、君は生まれ変わった魔界の意志をこのよに広める「贄」として……さあ成し遂げられなかった願いに添い生きて生きて殺すといい」
 目の前に座った青年は、怪奇的現象を前に畏れもなく柔らかな笑みを見せ指差す
「さあ持って、君が呪った世界の中へ。自らの意志をつら抜いて死を踊れ」
 四つん這いから立ち上がる男に彼は差し出した、逆巻く炎を並べた黒い紙を。
恭しく受けとった指先だが、目線は未だ現世を確認していない。
「貴方様は誰ですか……」
 錆びを噛んだ喉からの声が指標を求めれば、キャスケットを脱いだ彼は言う。
「迷うことはない、我らは君たちの無念を救う魔界の者。僕の名前は沖田総司(おきた・そうじ)、仮初めの平安に胡座かく世を立て直す新撰組の1人」
 深い夜が続く。
東京という街を覆う深い闇の夜が根を張り始めていた。




[8]前話 [9] 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ