02 異端十字
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ピースなのでは?」
変な事を聞く。
陵角の語りはいつも昔話をするジジイのように、ゆっくりと奇妙な抑揚にまみれた説教だ。
いつもそうだ。
いつも話し方は違っても立てていにおいて「適材」そして「必要」であるからの処遇で話は終わる。
訝しく下手からから相手の顔を確かめる。
前髪に隠した目を尖らせて。
背中を向けたままでは陵角の真意は計りかねる、今日は何かが違う、いつも言い続けてきた説教の果てを示すような口ぶりだ。
「趣味と仕事は違いますよ。適材っていうのも変ですよ、武道は仕事じゃないし、俺にとってそれほど大切な事でもなかったと……思いますよ」
「仕事は仕事ですよ。警視庁から「心身ともに強い人間を作りたい」という発注があったのですから、会社としてお客様のニーズに応える人材を配するのは当然でしょう。同時にそれが君の心を鍛える糧となる。違いますか?」
糧。
まるでありがたい施しをしてやっているという言い方。
隠しておきたい感情が柳の唇を歪め歯噛みさせる。
「糧とはまたずいぶんな言い方ですね。俺の役に立っているみたいな言い方はやめてくださいよ。結局会社の利益を満たすだけの事を……物は言いようというやつですか」
一気に尖った物言いになっていた。
試練を与え、自分を鍛えていると言う陵角に牙剥く顔をうつむかせて
「そういう事は顔を上げていってください。目を見ないと本心かどうかは計りかねますよ」
「……本心ってなんですか、俺が会長を……」
「恨んでますか? それも悪くはないのですが、求めているのはそれ以上のものです。武道を恨みやつらみで君は極めようと考えた事はないでしょう、つまらぬ私怨を残渣として脱ぎ捨てたものを私は必要としているのですよ。早く心という石を精錬し「戦う男」になって欲しいのです」
小学校の校長か?
思わずそう言い返したくなる言葉だった。
尖りはじめていた気持ちが萎えた、40も近くになって「戦う男」になれなどと、夢見がちな中学生が大剣豪を目指すような事を自分にしろと、まさにバカと思われていたのかと脱力していた。
「いまさら成長しろみたいな話はやめてくださいよ。なんだっていうんですか、今日に限って……」
ふざけた会話だと上げた顔の前、陵角の目線は青眼を見せていた。
いつもの嫌味な顔を見せていないジジイに、くだらないと言い投げしようとした柳の体は固まった。
真正面でこの老人と向き合ったのは初めてだった。
年寄りとは思えない強い意志が、背骨に鉄針を打ち込む緊張を与え、今待での会話がいつものおふざけでない事を悟らせる
「いったい、なんなんですか? 戦う男とか今の世の中に不必要ですよ、ましてや武道なんて」
「今、まさに武が必要なのですよ。柳生新陰流を若年で極めた君に課された使命なのだから」
「使命? なん
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