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俺の涼風 ぼくと涼風
11. お化粧ならあのひと(2)
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 さきほどゆきおとひと悶着を起こした私は、モヤモヤした気持ちを抱えながら、トボトボと宿舎に戻ってきた。外はとてもいい天気だが、私は今、気持ちがとてもどんよりしている。

「うう……」

 廊下を歩いている最中、窓に映った自分の顔を見た。ガラスに写り込んだ私の顔は、ガラスの向こうの景色にまぎれているにも関わらず、目の下のクマがハッキリ分かる。そのどす黒いクマに触れてみたが、痛みはまったくない。痛くないなら、ついでにクマも消えてくれればいいのに……

 しかも、これだけくっきりとクマができているのに……全身は睡眠不足でけだるいのに、目だけはバッチリと冴えていて、逆に覚醒しすぎて痛いほどになっていた。

 改めて窓を覗き込む。白目の部分がなんとなく赤いような……自分の顔の状態が、想像以上に悪い。ゆきおや五月雨が心配するのも分かる。これはかなりひどい。

 窓の外を眺めながら、窓の向こうの冬日和の景色に似つかわしくない、どんよりした気持ちを抱えている私が、景色に重なる自分の顔を覗きこむのをやめて、再び廊下を歩こうと前を向いた、その時だった。

「……」

 私の前に、険しい表情をした榛名姉ちゃんが立っていた。

「は、榛名姉ちゃん……」

 さっきまで胸に押し寄せていた、夢を見たことによる不安や、ゆきおに対するモヤモヤ、クマをなんとかしたいという焦る気持ちといった、どんよりとした気持ちが、潮が引くようにサッと引いていった。

「……涼風さん」
「あ、あの……」

 代わりに私の胸に押し寄せたのは、榛名姉ちゃんに対する罪悪感と、恐怖。今、榛名姉ちゃんは、自分の姉妹が沈んだ原因の私を、この上なく憎んでいる。

「目の下、クマが出来てますよ?」
「え、えっと……」

 喉が震えてきた。身体も震えてくる。榛名姉ちゃんの冷たく鋭い眼差しは、私に対する憎悪がこもっていて、見つめられる私はとても怖い。私は榛名姉ちゃんの顔を見ていられなくて、顔をそむけた後、視線を榛名姉ちゃんの胸元辺りまで下げた。

「……」
「あ、あの……」

 榛名姉ちゃんとちゃんと話したいのに、喉が震えて、お腹から声が出せない。だから喉で声を出すのだが、喉にも力が入らない。だからまるで、蚊が鳴いたような声しか出せない。

 自分の情けなさと不甲斐なさが嫌になる。せっかくゆきおに出会えたのに……せっかく、昔の事を乗り越えて、出撃して戦える艦娘に戻れたというのに、これじゃあ、ゆきおと出会う前の私と変わらない。あの、過去におびえて、戦うことが出来なかった、あの頃の自分と変わらないじゃないか。

 私が自分の不甲斐なさに打ちひしがれ、イヤになっていた時。榛名姉ちゃんが私に声をかけたのだが、その声に、私は違和感を覚えた。

「……眠れなかった
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