11. お化粧ならあのひと(2)
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る榛名姉ちゃんの顔も、とても晴れ晴れしく笑っていた。その笑顔は、この鎮守府に来て初めて見る、榛名姉ちゃんの、心からの笑顔だった。
夕食を食べ終わった後、私はゆきおにお礼を言うために、ゆきおの部屋に足を運んだ。受付が出来た宿舎の出入り口を通り、奥の階段を駆け上がって、いつものようにゆきおの部屋に向かう。ゆきおの部屋の前に到着したら、いつものように……でも、いつもより少し力を込めて、ドアをガッツンガッツンとノックした。
「ゆきおー!! ゆーきーおー!!」
『はーい。すずかぜ?』
「おう! あたいだ!! 涼風だ!!」
『開いてるよ。どうぞー』
ゆきおの許可を経て、私はドアをドカンと開き、部屋に足を踏み入れる。
「やっ……すず……か……」
「よっ! ゆきおー!!」
相変わらずベッドの上で本を読む、カーディガンを羽織ったゆきおと目が合った。その途端、ゆきおはほっぺたを少しだけ赤く染め、私の顔をぽけーと眺めはじめた。
「……」
「?」
「……」
「……ゆきお?」
不思議に思い、私はゆきおの名を呼びながら、ゆきおの目の前で右手をパタパタ振ったり、自分の鼻の頭を指で持ち上げて、豚鼻にしたりしてみる。それでもゆきおはしばらくぽけーとしていたが、やがてハッと我を取り戻し、慌てて視線を本に落としていた。
「や、やっ! すずかぜっ!!」
「んー?」
「で、きょ、今日はどうしたのかな?」
本を読みながらの返事なんだけど、なんだかゆきおがちょっと慌てふためいているような……まぁいいか。私は、ゆきおに言われたとおり榛名姉ちゃんに、お化粧を教えてもらえることになったことを伝えた。
「今もさ! 榛名姉ちゃんがあたいのクマを消してくれて、ほんのりお化粧してくれたんだ!!」
「そっか……それで……」
「ん? なにが?」
「な、なんでもないっ」
ベッドのそばのソファに腰掛け、私は今日の出来事をゆきおに報告するのだが……どうもゆきおの様子が先程からおかしい。私と目が合うと、自分が読んでいる本にサッと視線を落とすくせに、私の視線がゆきおから外れると、私の顔をジッと見る……なんだか少し、気持ちが悪い。
でも、本人が『何でもない』というのなら、特に問題はないだろう。本人のほっぺたが少々赤くなっているのが気にはなるけれど。
「そっか。よかったね」
「うん! それも榛名姉ちゃんをおすすめしてくれたゆきおのおかげだ!!」
「僕はなにもしてないよ」
私はゆきおの顔を見るが、ゆきおは相変わらずほっぺたを赤く染めたまま、私の顔をまっすぐ見ないで、向かって右上方向に目を向けながら話をする。その様子がどうにも可笑しいが、今の私は機嫌がいい。あまり突っ込まないでいることにした。
…
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