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俺の涼風 ぼくと涼風
11. お化粧ならあのひと(2)
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「……うん」
「だから眠れないんですか?」
「うん……」

 私のほっぺたにチークを塗る榛名姉ちゃんは、この部屋に入った時からずっと、とても真剣な……それこそ、何も知らない人が見れば、私への怒りを押し殺してるんじゃないかと思えるほど、真剣な表情を浮かべている。

 でも、私には分かる。表情は真剣だけど、目はとても穏やかだ。前の鎮守府で、私や摩耶姉ちゃんと談笑してくれていた頃の、あの優しい眼差しに近い。

 だからだろうか。私の心は、次第に緊張を解けて、リラックスしはじめていた。

 そして、それに呼応してか、榛名姉ちゃんの表情も少しずつ、柔らかくなっていった。この鎮守府に来てからずっと私に見せていた、あの、怒りを押し殺したかのような冷たい眼差しは、いつの間にか、昔の暖かい、優しいまなざしへと、変わっていた。

「……知ってました。あなたが苦しんでいたのは」
「……」
「あの日から……あなたが、自分がみんなを沈めたんだと、自分を責めて苦しんでいたのは知ってました」

 懐かしい、榛名姉ちゃんの優しい声が、私の耳にじんわりと染みこんでいく。心地いい波として、私の心に、静かに、だが確実に届く。次第に榛名姉ちゃんの目には、涙が溜まり始めていた。

「でも榛名は……あの日榛名は、みんなが沈んで憔悴しきってるあなたに、ひどいことを言いましたから……あなたがみんなを沈めたと勘違いして、とてもひどくなじってしまいましたから……」

 薄く薄くチークを塗ってくれる榛名姉ちゃんの手が止まり、名残惜しそうに、私の顔から離れていった。しゃがんでいる自分のふとももに手を置き、俯いた榛名姉ちゃんの声が詰まる。

「だから、本当は謝りたかったけど……もう無理だと思ってました。だからせめて、あなたが戦えないのなら、榛名があなたの分まで、戦おうと思って……」
「……」
「あなたがもう二度と、戦いの場に出なくて済むように……だから、戦いに行く榛名に近づかないで済むように、ずっとあなたに……ひどいことを言い続けて……」

 うつむく榛名姉ちゃんのふとももに、ぽたりぽたりと涙が落ちていることに気付いた。

 今分かった。私は、ずっと榛名姉ちゃんに恨まれてると思ってたけど、本当は榛名姉ちゃんも苦しんでたんだ。私にひどいことを言ったから、もう仲良く出来ないと思って、ずっと苦しんでたんだ。

 だから榛名姉ちゃんは、せめて私を戦いから遠ざけようとして、私にずっと冷たくあたって、自分から遠ざけようとしてたんだ。だから久々の出撃のときも、私にキツいことを言って、出撃させまいとしてたんだ。

 でもそれが、逆にずっと榛名姉ちゃんを苦しめ続けて……私に対してひどいことを言い続けてるって、自分を責めて……

 榛名姉ちゃんが顔を上げた。目には涙
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